出版社内容情報
人生の本質を無常・流転に見た芭蕉の芸術と生涯はいくつかの旅を展開点として飛躍を遂げてゆく.肉体と精神を日常性の停滞から解き放ち,新たな発見に直面させてくれるもの,それは旅であり,芭蕉の人生観・芸術観の具体的吐露が紀行文であった.本書に収めた諸紀行文は『奥の細道』という高峰に至る道標とも言えるであろう.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
273
4つの紀行と「嵯峨日記」を収録。「野ざらし紀行」は、紀行とはいうものの、やや長めの詞書を付した発句集といった趣き。もっとも「野ざらし紀行」は通称で芭蕉自身がそう名付けたわけではないが。冒頭の句もいいが、やはり最も目を引くのは「猿をきく人すて子にあきのかぜいかに」だろう。「海くれて鴨の聲ほのかに白し」他、名句の宝庫。「笈の小文」も中盤では息切れするものの、冒頭と末尾には芭蕉の強い意気込みが感じられ、ことに「風雅」を標榜するあたりには芸術観と俳諧にかける覚悟が見受けられる。句は「行春に…」か「若葉して…」か。2017/07/13
しんすけ
19
芭蕉といえば『おくの細道』が有名だが、ここに所収された『野ざらし紀行』と『更級紀行』には、もっと惹かれるものがある。 『おくの細道』は大成した芭蕉の枯山水の風雅を感じるが『野ざらし紀行』と『更級紀行』は、人間芭蕉の生々しい声が聴こえるからだろう。 下記は『更級紀行』の一節。 仏の御こゝろに衆生のうき世を見給ふもかゝる事にやと、 無常迅速のいそがはしきも、我身かへり見られて、 あはの鳴戸は波風もなかりけり。2022/09/02
広瀬研究会
7
「百骸九竅(ひやくがいきうけう)の中に物有」という『笈の小文』の序文に惹かれて読みました。正直しろうとには手の負えない内容だったけど、芭蕉の芸術の片鱗をほんの少しだけ味わえたかもしれないな。2019/05/02
うた
3
『おくのほそ道』と比べると構成は練り込み不足だが、風狂の精神の起点になっているのがよくわかる。貧さの肯定、清貧とはまた違って、芭蕉の態度はそもそも貧さを出発点にしていないと思う。手持ちのもので十分に楽しむ姿勢というか、流転しながらも緩やかに現状を肯定しているというか。…なんか堀江さんみたいな物言いになってしまった(笑)。2012/03/25
Jun Shino
2
「笈の小文」がいい。芭蕉の紀行文は面白みと交友の豊かさと、わび、が盛り込まれている。 「野ざらし紀行」「鹿島詣」「笈の小文」「更科紀行」「嵯峨日記」が収録されている。旅の細々した出来事や多くの門人たちとの触れ合い、土地の風情を描き、芸術論もある。決めどころで俳句、というのはずるいくらい恰好いい。 「おくの細道」はひとつの出来上がった芸術品。こちらは小品の集まりで有名な句も少ない。しかしやはりものすごく歩き回っているし、底流に流れるものはよく似ている。独特の芸術論もしっくりきて、いい読み物だった、2019/04/25