出版社内容情報
何を病気とし,誰を治療者とし,何をもって治療なのか.普遍症候群・文化依存症候群・個人症候群の軸を立て,精神病理と文化をさまざまな角度から考察する.治療文化の問題から精神医療を根源的に問い直す画期的論考.
内容説明
何を病気とし、誰を治療者とし、何をもって治療とするのか。普遍症候群/文化依存症候群の構図に個人症候群の概念を導入し、精神病理と文化を多角的に考察する。治療の仕方、患者‐治療者関係をはじめ無数のことがないまぜになっている「治療文化」から精神医療を根源的に問い直し、人間理解への新たな視点を開く画期的論考。
目次
文化精神医学をめぐる考察―文化精神医学と文化精神医学者
「文化依存症候群」の問題
ヨーロッパの「文化依存症候群」―一つの逆説
「文化依存症候群」についての再考察
「個人症候群」という概念に向かって
「個人症候群」概念導入の試み
三症候群の文化精神医学に向かって
治療文化論
治療文化の諸形態
精神科治療文化の複数性
患者と治療者
週末と新しい地平
著者等紹介
中井久夫[ナカイヒサオ]
1934年奈良県生まれ。1959年京都大学医学部医学科卒業。神戸大学名誉教授。甲南大学文学部人間科学科教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
56
【文化精神医学の歴史は、自らが内包する矛盾に引き裂かれつつ前進した歴史である】文化依存症候群の構図に個人症候群の概念を導入し考察した論考。精神科医・江口重幸氏は「解説」で著者の文体について、<教科書風の記述からは遠くへだたっていて、細部はそれぞれに多声的な発想に溢れる小路を形成し、どこにつながっていくのかわからない迷宮を形作っている>と書いているが、同感です。そんな文体で書かれた本著書であり、間に挟まれた「註」のフォントが実に!小さく読むのに難渋したにもかかわらず、読み応えがあるところがスゴイところか。⇒2024/04/08
i-miya
42
2011.08.29 (副題) -精神医学的再構築の試み- (カバー) 何を病気とし、誰を治療者とし、何をもって治療とするのか。普遍症候群、文化依存症候群、の構図に、個人症候群の概念を導入精神病理と文化の多角的に考察する。治療の仕方、患者-治療者関係をはじめとする無数のことがらがないまぜになっている。「治療文化」から精神医療を根源的に問い直しする。人間理解への新視点。2011/08/29
かずりん
10
100分deで中井久夫氏を知り臨床精神医学へ興味が広がる。斎藤環先生にイチオシの著書は本書と聞いて購入。専門的な研究論文でありながら一般人にも理解できるような平易な文章で書かれているからこそ、これだけ慕われているのだろう。個人症候群というたった一人しか該当しない疾患があり、それに対応する多用の治療文化があるという。自分自身の経験によって、自分から出発した「私精神医学」として書かれたからこそ切実で説得力があるものとなった。臨床医の立場から見た診断そして治療。真摯な姿勢に身が引き締まる。 2023/04/13
さえきかずひこ
10
1983年に岩波講座精神の科学シリーズの第8巻に収録された「概説ー文化精神医学と治療文化論」がもとになっている本書は、精神医学のとらえる精神病について、文化的多様性という観点を援用し、病を治すことの実相を個別具体的なーとくに非西洋的かつ前近代的なー実例を踏まえ、随想的かつ文学的な広がりをもって考察していく一書である。エレンベルガー『無意識の発見』を念頭に、治療文化を精神医学に対置し、周縁的なものとして論じる姿勢は一貫しているが、どちらかが優れているのではなく相補的な体系とみなしている点に読みごたえがある。2020/03/26
かやは
9
1983年に初版、2001年に岩波現代文庫で出版され、現在でも読まれている本。決して一般向けではないと思う。なかなか込み入って理解するのが難しかった。感想、見解、解釈。論文としてまとめるには断片的なものが散りばめられているようだ。それでも中井先生のレトリックは楽しい。「精神科医は傭兵であり売春婦」という著者の言葉が心に残る。必要な存在だが、侮られ見くびられる。決して本流にはなれない。「狐憑き」の正体は精神病だったのではないか。妖怪も神性も現実のレトリックである。「邪悪さ」が治療の対象となる未来も近いのか。2023/12/12