内容説明
「あたしには幼い頃の思い出が全然ないの」。7年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと立つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ちうける恐るべき真実とは…。超絶人気作家が放つ最新文庫長編ミステリ。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tetchy
762
本書はある家で何が起きたのかを残された手がかりで解き明かす男女2人の物語。その過程は非常にスリリングだ。この作品が書かれた頃は“自分探し”というのが一つのブームになった時期でもある。“自分探し”というのは文字通り自身の足跡を辿り、自分がどんな人間なのかを探ることも指すし、心理テストを行い、自分の願望や性格をその結果から客観的に知るという手法もまた自分探しの一環であった。当時『それいけ!ココロジー』に代表される心理ゲームの番組が流行っていた。300ページ足らずの佳作だが、心に残る思いは思いの外、苦かった。2011/03/24
馨
602
この小説の凄いことは、登場人物が2人しかいないのに物語が広がって深く進むことです。 さすがは東野さんって思いました。物語の展開がとってもうまいです。先がまったく読めなくて、本当に発想力が人と違うと思い知らされます。
zero1
569
知らないほうがいい真実はある?自分の過去には秘密があった。人妻の元恋人に頼まれ、主人公の男は彼女と松原湖近くの別荘に行く。そこに住んでいたのは誰か?時刻や血液型の謎。手がかりとなる日記に手紙、金庫。虐待の連鎖。謎が謎を呼び伏線多数も後に回収。【もし自分なら】を考えると怖くて寒い。再読でも興味深く読めたのは、流石に【ハズレの無い】東野。ご都合主義だが、読者を惹きつける技はこの頃(94年に単行本が出た)から今日まで衰えていない。まさしく【多彩で多才な作家】だ。解説は東野と親交のある黒川博行(後述)。2019/11/03
夢追人009
482
東野圭吾さんの通算27冊目となる1994年の作品ですね。本書の題名は最初から矛盾していますので非常にインパクトがありますが、特に意味を考えて深く悩まずにサラッと受け流すと良いでしよう。7年前に別れ今は結婚し子供もいる昔の彼女・沙也加は幼い頃の記憶を失っており亡父の遺した白い家に手掛かりがあると考えて私に同行と調査を頼んでくる。二人は家に残された子供の日記を読む内に彼女の過去の隠された秘密を突き止めるのだった。まあ随所にちりばめられた伏線と手掛かりを読み解いて思いも寄らぬ真相に至る手際は鮮やかでお見事です。2023/01/09
ノンケ女医長
478
家は、閉鎖空間。中で何が行われているか、外からは分からない。大事なはずの家族によって、大きな傷を負わされた。その苦しみは誰にも言えないので、自分を殺すしかない。殺したあとも、生きていかなければならない。他人を愛せず、自分も愛せない。果てなく続く苦しみは、家で起きた出来事が原因だった。直面化しないと、前に進めない。真っすぐ人生を歩み直せるかも、分からない。でも何が行われていたのか、もう一度知らないといけない。タイトルが表現する、熾烈な地獄。父親から同じ経験を受けた私はとても、苦しくなった。2022/12/29