出版社内容情報
作家への憧れ、未亡人への恋、生きることへの不安……。美青年・小泉純一の成長を描く、『三四郎』と並ぶ傑作青春小説。
作家を志して上京した青年小泉純一は、有名な作家を訪ねたり、医科大学生大村に啓発されたりして日々を過す一方、劇場で知りあった謎の目をもつ坂井未亡人とも交渉を重ねる。しかし、夫人を追ってきた箱根で、夫人が美しい肉の塊にすぎないと感じた時純一は、今こそ何か書けそうな気がしてくるのだった。――青春の事件を通して、一人の青年の内面の成長過程を追求した長編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
129
森鴎外の一種の教養小説のようで漱石の「三四郎」をもう少し難しくしたような感じでした。数十年前に全集で読んだのですが、今回読み直してみてかなりペダンティックな感じがしました。外国語をこんなに多用していたかなあという気もします。最初の方で漱石らしき人物も出てきたりします。鴎外の「イタ・セクスアリス」も読んでみようかと思っています。2023/08/31
優希
51
教養小説なので、内面に重みを置いているようです。交渉を重ねていた未亡人が美しい肉体にしか見えなくなるのには鳥肌が立ちました。小説家を目指して上京した青年は何か書けそうな気がするのも怖いと思います。1人の青年の成長を描いた作品としては完成形なのではないでしょうか。2023/11/30
Major
42
これは恋愛小説でもなければ、学生と未亡人というある種予想される危うい人間関係の中での微妙な心理の機微を中心に描いた物語でもない。全体的には主人公純一を取り巻く、学友、師、著名な人々との直接的、間接的な関わりと世間との交わりの中で、一青年が思索を育み、精神的に成長していく姿を描いた作品である。 登場人物を通して、漱石、蘆花、イプセン等の作品とその思想について断片的に語らせている。さすがに、ライバル漱石の思想について(漱石を模した人物をも登場させる。)たった数ページの中でその思想的な核心を端的 コメントへ続く2017/08/27
佐島楓
41
鴎外がこんなに素直な青春小説を書いていたとは知らなかった(舞姫のイメージが強すぎた)。まだ未読の作品がたくさんあるのでしっかり読んでいこうと思う。2015/01/16
イプシロン
40
実に素晴らしい一冊。約200頁でこれだけのことを語れるのは鴎外において他にいないだろう。日本人は海外の大きなものをこじんまりさせてしまう。金の無心をするような友を持つべきか? 一つの文学作品に対して忌憚なき意見や我が哲学をいいあえる友こそ宝ではないか? 恋愛をすべき対象は欲念の仮面の底に光る妖しい目をもつ女か? ありのままである女であるべきか? 唯物的に生きるべきか? 唯心的に生きるべきか? その両者を兼ね備えるべきか? そして今を生きる生活とはいかなることか? 青年期に自問自答すべきテーマがぎっしりだ。2016/11/29