内容説明
主人公は、ヤスミン。黒い肌の美しき野獣。人間の動物園、マンハッタンに棲息中。あらゆる本能を手下にして幸福をむさぼる彼女は、言葉よりも、愛の理論よりも、とりこになった五感のせつなさを信じている。物語るのは、私。かねてヤスミンとは、一喜一憂を共にしてきた。なにせ彼女の中を巡り流れる「無垢」に、棲みついている私だから…。小説の奔流、1000枚の至福。泉鏡花賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
149
ニューヨークに生きる ヤスミンの奔放な 日々を通して、人種のルツボ ニューヨーク の時代風景を描く。 正直 ヤスミンと 関わる人物が 多すぎて、各章が 同じトーンになりがちなのが 苦痛だった …肌の色、人種の違い、ドラッグとセックス …著者らしい題材といえば 題材だが、 なかなか 入り込めない作品だった。2020/02/15
Atsushi Saito
72
多分二度目の読了。 ヤスミンの血の中に住むブラッドを通して見る人間の性、愛、自由、本能。 若きソウルの今後が気になります。2016/07/28
パトラッシュ
46
ニューヨークで自由奔放に生きる黒人女性ヤスミンを軸に、20世紀末アメリカの性と麻薬と人種問題を万華鏡のように展開する。簡単に人が死に、壊れ、失われ、暴行される大都会をヤスミンが蝶のように舞い、快楽の蜜を吸う姿はアメリカ人が何とか未来を信じられていた時代の空気を映す。しかも語り手にウイルス様の生き物を配し、人ならざる視点から人を哲学的に観察するのだ。この設定がユーモアを醸し、悲惨な話の連続なのに楽しく読めてしまう。ほぼ四半世紀が過ぎた現代が舞台なら、トランプ政治が引き裂いた分裂の傷跡に立ち竦んだいただろう。2020/11/27
優希
44
文句なく面白かったです。NYの黒人美女ヤスミンの幸福を貪るような自由さがありますよね。言葉とか愛情とか、そういう薄っぺらい言葉で表現できない、体の全てで切ない体を求める感情が突き刺さります。一見すると性に無垢な女性の姿を描いていますが、人種差別や生きることの難しさと強さのような考えさせられるテーマが凝縮されているような気がします。官能と性愛の世界を通じて、永遠のテーマである、他人と触れあいたいという純粋な心が見えました。人間として生まれてきたならば白人も黒人も黄色人種も関係なく結ばれていく理想を見ました。2014/04/18
メタボン
37
☆☆☆☆ 力作がゆえに読了にかなりの時間を要した。しかし読み終えるのが惜しい気分になった。花村萬月の解説にもあるが、これをSFというひとくくりにしてしまうのは私も乱暴だと思う。ヤスミンの体内に生息するブラッドの存在をどうとらえるかということは、読者に委ねられるべきであって、それをウィルスを論じるような視点に狭めてしまっては、この小説の価値を減じてしまう。人種に対する差別意識、男女が互いに性的に魅かれること、そういった人間の永遠とも思える課題について、流麗な文章とともに考えることがこの読書の醍醐味だと思う。2018/01/09