出版社内容情報
読売新聞書評欄(1998.4.11) 評者:石井 進
「日本の江戸時代」? 江戸時代という時代は日本にしかないのに、なぜ? 「日本の近世」なら、まだわかるのだが、と書名に若干のこだわりを感じながら読みはじめた。ところが意外に面白い。一気に読了してしまった。自給自足の農村を基盤にした封建社会だというような従来の江戸時代観は、数々の禁令や御触書など支配者の法制だけによる机上の空論で、村々に残る古文書やしきたりを調査すると、全く別の姿が浮かび上がってくると著者はいう。たとえば「五公五民」で収穫の半分は年貢に取られたというが、幕府直轄地の佐渡では年貢率が三割台をこえた例はない。しかも越後の村々では公的帳簿の検地帳とは別に、水田の実収高を示した帳面があり、両方を比較してみると実収は公的帳簿の二倍以上もある。これが一般だったとすれば、実施的な年貢率は三割台よりさらに低かったことになる。(中略)このような調子で次々と常識を批判しつつ、法や制度などの形式ではなく、村の側から江戸時代の実体をとらえ直す必要が強調される。そして重商主義が育ち、貨幣はすでに資本として動きはじめていた江戸時代を封建社会とみることはできないとの結論に達する。ここまで読み進んでくると、近世封建制論への反対が、「日本の近世」といった書名を選ばなかった理由らしいと見当がつく。それにしても従来の日本史学界の通説に対する真っ向からの批判だけに、通説的立場からの反論が期待される。
日本の古い体質のシンボルである江戸時代封建論に真向から挑戦する江戸近代論。「検地は百姓の土地私有の確認である」ことを実証し,一揆は幕府の約束違反に対するムラの抗議だとして,日本史全体像の変革を迫る
内容説明
武士は土地を失なってサラリーマン。百姓は土地を私有し、売買し、商売の資本にもした。E.H.ノーマン以来の江戸封建論、農民窮乏論をくつがえし、百姓の活躍する江戸近代史論。
目次
第1部 時代転換の契機―金銀山と田畑の開発
第2部 領有から私有へ―検地・五公・定免
第3部 変化する幕府法令―「御触書」と『御触書集成』
第4部 近代の創造―民衆の自由と生産
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しびぞう
wuhujiang