内容説明
私たちの生を包む諸関係は、深刻な病理を抱えているのではないか。象徴天皇制が象徴する「関係の貧困」、会社主義が具現する「共同性の貧困」、五五年体制の遺産たるコンセンサス原理が孕む「合意の貧困」、この三つの病因から、日本社会を構造的に診断。リベラリズムに基づく社会の再編へむけて、ラディカルな思想的処方箋を描く。
目次
第1部 関係の貧困(天皇制を問う視角―民主主義の限界とリベラリズム;付論 補足と解題―天皇制・民主主義・リベラリズム)
第2部 共同性の貧困(個人権と共同性―「悩める経済大国」の倫理的再編)
第3部 合意の貧困(合意を疑う;政治的知性の蘇生に向けて;コンセンサス社会の危機と変革)
著者等紹介
井上達夫[イノウエタツオ]
1954年生まれ。東京大学法学部卒業。現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。専攻・法哲学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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大道寺
10
90年代、バブル崩壊後の日本における、関係の貧困、共同性の貧困、合意の貧困について、具体的には、天皇制、会社主義、五五年体制について、批判的に論じている。これら、「戦後日本を支えてきた「三種の神器」」は本書の元となった単行本が出た2001年から10年以上経った今もなお健在である。「三種の神器」として著者が用いるのはリベラリズムである。例によって著者のリベラリズムは「自由主義」と言い換えることはできない。/(1/2)2013/12/29
sk
2
リベラリズムってよく聞くけど分かっていなかった。この本を読むとよく分かる。2015/10/25
白義
2
副題通り、天皇制、会社主義、55年体制それぞれのテーマに渡り、民主主義とリベラリズムの距離と緊張感、量や質の豊かさから関係の豊かさへの転換を指し示す極上の戦後日本論。筋金入りのリベラリストだけあって参加民主主義への幻想は一切なく、天皇制への評価もクールそのもの。単純な民主主義礼賛ではなく、リベラリズムにより制限された批判的民主主義観を提示している。骨太2011/04/29
ユウキ
1
とりあえず第1章のみ。井上達夫は「常に正しい統治の理念」によって国民主権が制約される「ノモス主権」を認める立場にあるが、その理念を「共生」を標榜するリベラリズムとして措定したとき、文化的あるいは民族的同質性を象徴し、タブーをもたらす天皇制とは相容れないというのが論旨だろうか。2023/12/21
えむ
1
法哲学者による、現代日本の「貧困」の問題に関する考察。経済的な貧困の問題だけではなく、関係性や合意、共同性などの「貧困」を取り上げているのが特徴で、現代日本社会論として、少し古いが今なお読む価値のある1冊だと感じた。2018/08/19