内容説明
ウィルミントンの町に秋がきて、僕は11歳になった。映画も野球も好きだけど、一番気になるのはガールフレンドのジルのことなんだ…。アメリカ育ちの大介の日常を鮮やかに綴った代表作「こうばしい日々」。結婚した姉のかつてのボーイフレンドに恋するみのりの、甘く切ない恋物語「綿菓子」。大人が失くした純粋な心を教えてくれる、素敵なボーイズ&ガールズを描く中編二編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
478
ウィルミントン(デラウェア州のだと思う)には行ったことがないけれど、なんだか自分自身がそこで過ごした少年の日々が懐かしいような気のする物語。11歳のダイがいい。彼はアメリカ育ち(国籍もアメリカ)で、自身のアイデンティティもアメリカにあるのだけれど、その実、日本の男の子そのものなのがまたいい。ウィルミントンの街の空気感、とりわけ秋の透明感が物語を一層爽やかに、また鮮やかに彩る。プロットはさほどに起伏があるわけではなく、11歳の少年のささやかな日常が描かれるのだが、その自然さこそが小説を形成するのである。2019/09/18
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
183
この人のタイトルのつけ方ってなんかもう、ずるい。ウィルミントンという町は行ったことないけど、ウィルミントンの秋はたしかにこうばしいし、海の風さえ日本とは違うよう。 結婚した姉の以前の恋人に恋するみのりの日々はあまく切ない「綿菓子」でしかないし。子どもの頃って、たしかにいろんなことを考えているんだけれど、こんな風におとなの世界は膜を張っているように遠いんだよなぁ。こんな風に不器用に愛を示されたらメロンは年に一回しか食べれないし、珈琲は何よりもあまくてしょっぱい飲みものになる。 これはなんともずるい小説です。2019/09/22
優希
118
面白かったです。とてもピュアなボーイズ&ガールズ。揺れる心を綺麗に切り取っていて、心にじんわりきます。甘酸っぱくてやらわかくてとろけそうな中編が2編。幼いけれどちゃんと恋してて、その様子が可愛らしかったです。ぎゅーっとなりました。2016/03/10
アン
100
ウィルミントンの町で家族と暮らす11歳の少年の日常を描いた表題作。大介はアメリカ育ちで多感な年頃です。スクールバス、学校の食堂、野球場などの風景は、秋の季節に彩られ映画を観ているよう。まさにルビー色の紅茶とチョコレートブラウニーの香ばしい味わいのある日々。姉のかつてのボーイフレンドに恋心を抱く少女の切ない物語「綿菓子」。柔らかな文章で、少女が大人の矛盾した気持ちに悩む姿を的確に表現されています。その一瞬一瞬が、宝物ように大切だったことを思い出させてくれます。江國さんが20代で綴った素敵な作品。 2019/09/29
Willie the Wildcat
93
恋愛と結婚に垣間見る過程と経緯。模索する結婚観。両親、祖父母、姉などが模範であり、反面教師ともなる。友人の言動も評価軸に加わり、ぼんやり大人の世界を感じつつ、目の前の自分に向き合う。作品としては『綿菓子』の方が、印象的な件アリ。みのりが、いつもと違うみつまめを自然に頼んだところに成長を感じるかな。加えて、姉の誕生日のメロンに込められた家族愛。一方、何故に”綿菓子”なのかに頭を悩ます。涙で始まり、涙で終わる。甘くも溶けるか、儚く溶けるかは、心持次第。故の”綿菓子”也。2018/12/22