内容説明
官僚がつくる「唱歌」に猛反発した北原白秋は「童謡」を創生し、震災後の社会に受け入れられて国民詩人の地位を確立する。自治への欲求を高めて大正デモクラシーを担った民衆は、詩人に作詞を依頼して「わが町」を歌いあげる民謡に熱狂した。拡大の一途をたどりつつ国民に奉仕を求める国家、みずから進んで協力する人々、その心情を先取りする詩人、三者は手を取りあうようにして戦時体制を築いてゆく。“抒情”から“翼賛”へと向かった心情の回路を明らかにし、戦前・戦時・戦後そして現在の一貫性をえぐり出す瞠目の書。
目次
序章 震災から戦争へ揺れた心情の経験―詩人と民衆の詩歌翼賛への道
第1章 抒情詩歌の成立と本質化される郷愁―日本製郷愁の二つの問題構成
第2章 民衆の植民地主義と日本への郷愁―傷を負った植民者のナショナリズム
第3章 歌を求める民衆/再発見される「この道」―震災後の地方新民謡運動と植民地帝国の心象地理
第4章 国民歌謡と植民地帝国の心情動員―翼賛する詩歌/自縛される心情
終章 継続する体制翼賛の心情
著者等紹介
中野敏男[ナカノトシオ]
1950年東京生まれ。東京大学大学院修了。博士(文学)。東京大学助手、茨城大学助教授などを経て、東京外国語大学教授(大学院総合国際学研究院)。専門は社会理論、社会思想(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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