出版社内容情報
誰かが何かを意味するとはどういうことなのか? グライス以来の「話し手の意味とは何か」という哲学的問いに新たな解答を提示する。
従来の議論では「話し手の意味」が話し手の意図を通して理解されてきたのに対し、本書ではそれを話し手と聞き手の共同体において生じる公共的な現象として捉える。話し手の心理と深く結びつきつつ、自らの意味したことをおおやけに引き受けなければならないという意味で公共的でもあるという両側面を説明しうる新しい理論を構築する。
内容説明
グライス以来、話し手の意図を通して理解されてきた「話し手の意味」を、聞き手との共同体において生じる公共的な現象として捉えなおし、コミュニケーションの新たな捉え方を提示する。
目次
話し手の意味の心理性と公共性
1 意図基盤意味論(意図基盤意味論という枠組み―グライスの「意味」論文から;意図基盤意味論と意図の無限後退)
2 意味と意図を切り離す(意図の無限後退はなぜ起きるのか?;意味と意図の関係)
3 公共性を基礎に据える(共同性基盤意味論;話し手の意味の心理性を説明する)
結論 共同性に根差したコミュニケーション
著者等紹介
三木那由他[ミキナユタ]
1985年神奈川県に生まれる。2013年京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学。2015年博士(文学)。現在、大阪大学文学研究科助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buuupuuu
15
共同性基盤意味論もまた、ゲームに例えられそうだ。ある振る舞いがゲーム内の指し手として成立するかどうかには、参加者全体の承認が必要になる。指し手が成立すると、それによってプレイヤーのステータスが更新される。このステータスはブランダムが言うところの規範的地位である。コミットメントを即、話し手の信念と同一視しないところが面白いと思った。自分のような口下手な人間は、自分の言葉が自分の意図を裏切ってしまうようなことを度々経験する。言葉には異物感がある。無限後退のような話は、すぐに頭の容量を越えてしまうので辛い。2022/08/19
こたろう
3
コミュニケーションでは、話し手の主張を正しく理解することに加え、聞き手による理解も必要という著者の博士論文を元に加筆を加えた本。グライスの主張(意図基盤意味論)を否定する形で新しいコミュニケーションにおける考えを提案している。グライス、シファー、デイヴィス…などの意味に関する哲学者の考えをサマリして説明してくれているので、哲学の門外漢にはありがたい。哲学のやり方なのかもしれないが、途中で論理式による分析が入ることが、どうもシックリこなかった。2020/07/14
ami
3
グライスの意図基盤意味論の反論としての共同性基盤意味論。1~3章にかけて「意図」に関する複雑な分析があって難しいけど、既存の論の問題点を細かく砕いて分かりやすく解説されている。Ⅲ以降は個人のレベルから公共性に移ってコミュニケーションを分析していくんだけど、ここからがかなり面白かったです。2019/12/27
滑車
2
グライスの立ち上げた「意図基盤意味論」が袋小路に至ることを示し、代案として「共同性基盤意味論」を提唱する。著者の立場それ自体も応用可能性を感じさせる非常に魅力的なものだが、本文の3/4ほどを占める意図基盤意味論への批判的検討こそが本書の読みどころだと思う。第1章での意図基盤意味論に対する特徴づけ直しや、第4章における意図基盤意味論の直観的説得力に対する吟味など、単に反例を出して終わりで済ませない徹底性に、この立場に対する著者の思い入れのようなものが感じられる。2022/08/20
わんぱら
2
意味を話者の意図が規定するという意図基盤意味論を批判した上で、それに代わって、話者と聞き手の間に成立する(ある特定行為がある特定の意味を表現するということに対する)共同的コミットメントが意味を規定する共同性基盤意味論を主張する。意図基盤意味論の批判は非常に説得的。共同性基盤意味論も、上記要約のように、(筆者がギルバートに従って用いる「集合的信念」←存在論的に論争的)ではなく、共コミを基盤にするなら、的確な描像と思う。ただ、共コミの無限後退の処理を含めて、大屋根元的規約主義と整合的というかそのものに見える。2020/03/31