出版社内容情報
『ジャングル・ブック』の作者として知られるキプリング(一八六五―一九三六)の短篇の手法は,ジョイス,ヘミングウェイ等にも影響を与え,今日再評価の声が高い.インドを舞台にした初期の作品から,物語の重層性,複雑な話法が見直されている「損なわれた青春」等後期のものまで代表的短篇9篇を収める.うち本邦初訳7篇.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
210
「領分を越えて」…英人男性と植民地女性の恋が月光と刃の煌めきに終わる話。「モロウビー・ジュークスの不思議な旅」…砂の底にある穴に落ちた英人男性。安部公房の「砂の女」を思い出しつつ、現地人の浮かべる薄笑いと《地獄の共和国》という言葉が頭にこびり付いた。「めえー、めえー、黒い羊さん」…ボンベイの富裕な家に育った英人少年が、預けられた本国の家庭で黒い羊(余計者)扱いされ、再会した母も少年の愛を呼び戻せない。「ブラッシュウッド・ボーイ」「損なわれた青春」など、夢や隠蔽を扱った作品からは作者の複雑な内面が窺われる。2021/11/28
ソングライン
17
イギリスの植民地時代のインドを舞台に、現実と幻想が混在する世界と、人間の理性の裏に隠された冷徹な一面を描く短編集です。幼い兄妹が預けられた他人の家で、宗教的精神的迫害を受ける「めえー、めえー、黒い子羊さん」、善人な付き添婦の生活を描くも最後に彼女を襲う突然の出来事に呆然とする「メアリ・ポストゲイト」が印象に残ります。2020/02/02
白義
16
児童文学のジャングル・ブックで知られるキプリング。その大人向け短編は、硬質な雰囲気に昏い複雑さを備えた濃厚なテイストのものが多い。コンラッドと似たような、文明人が未開の闇に飲み込まれる「領分を越えて」「モロウビー・ジュークスの不思議な旅」や、その闇を体内に持ち熱にして叩きつけるような「交通の妨害者」など攻撃力の高い作品揃い。オススメは橋造りに関わる男の世界から一気に神々の対話に飛ぶ幻想文学「橋を造る者たち」、実直なメイドを描きながら最後にそれがホラーに変貌する「メアリ・ポストゲイト」2013/04/29
歩月るな
12
スティーブンスン、ヘンリー・ジェイムズいわく「ヘンリー・ライダー・ハガードを殺した幼児の怪物」。コンラッド、ウェルズ以前の時代の寵児。通俗感の無い透徹さがある。『損なわれた青春』の文学サロン的ロマンはすさまじい。収録作にあえて文学的な視点を加えるなら『橋を造る者たち』は露伴『五重塔』と比較されても良い作品だろう。職人気質モノの系譜と見えるが、現場を仕切るものと現地労働者の隔たり、責任感の違い、物語の流れに、橋と塔という宗教的建造物か否かの決定的違いが明確に表れてくる。人が橋を造るのは信仰の阻害になる、と。2017/05/13
有沢翔治@文芸同人誌配布中
10
海外では短編の名手として知られているそうですが、日本ではまとまった短編集がこれ一作。インド生活の経験を活かし、あこがれではなく生のインドを書いた。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51505263.html2019/05/04