出版社内容情報
南イングランドの片田舎に隠栖して独り古典と田園の世界に心豊かに生きる一人物の自伝に仮託して書かれたギッシング(一八七五―一九〇三)最晩年の作.繊美この上ない自然描写は英国人ならざる我々をも魅してやまぬが,何よりも我々の心をうつのはこの作のすみずみにまで行きわたる,自分というものに対する強靭な誠実さである.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
140
先日光文社の古典新訳文庫で読んだのですが何度も読んでいるのですが、岩波での何度目かの再読です。イギリスの季節感あふれる自然の様子が読んでいて心にしみわたります。ヘンリ・ライクロフトという架空の人物の感想が主体ですがギッシング自身の感じたことあるいは思ったことを書いたものなのでしょう。何回読んでも楽しめます。これとラムの「エリア随筆」とモームの「サミング・アップ」は私の三大海外随筆だと思っています。2019/09/22
ナマアタタカイカタタタキキ
74
架空の作家が晩年に書き溜めた私記という形式をとってはいるが、明らかに作者自身の人間性が色濃く反映されていて、まるで自伝のようだ。繊細な文体で描かれる季節の移ろいと、静謐な死への道筋。時に打ちひしがれたり辛酸を嘗めるようなことがあっても、その中で最後まで大切に守り抜きたいもの、己にとっての真の安らぎとは何だろうかと考えさせられる。晩年において、このような安穏の日々を得られる人間が果たしてどれだけいるのだろうか。偏屈な爺だなと思わなくもないけれど、私がこの境地に至っていないからこそそう感じるだけかもしれない。2022/02/16
NAO
74
架空の文筆家ヘンリ・ライクロフトの私記という形式の自叙伝的小説。その記述の中でも特に目をひくのは自然描写の美しさだが内省的記述が増すにつれて自然描写は徐々に減っていく。作者は若い頃かなり厳しい生活を強いられていたようでその時代への嫌悪が見え、それもあってか、ヘンリ・ライクロフトの階級意識には並々ならぬものがあり、読んでいて気になって仕方なかった。これは、当時の知識階級の考えでもある。あきれ返るような階級意識の鼻持ちならなさには、どんなに美しい自然描写も深い思索もすっかり色褪せてしまうのが残念だ。2020/04/25
マエダ
68
僻み嫉みの塊のような文体であるがどこか読んでしまう。巻末でチザム氏なる人が”性格に対する感情がなく、会話に対する感覚がなく、緊張感をもりあげる力がなく、諧謔を解する心が乏しかったのである”と言っているが的確である。2018/04/17
けんとまん1007
64
架空の主人公をして語らせている、自伝的ものがたり。この時代のイギリスということを想像できないが、そこを覆っている時代性が伝わってくる。人は、その時、その時、いろいろなことが頭をよぎり、考え、また五感からいろいろなことを感じている。自然であり、生活であり、隣人であり・・・。誰しもがあること。2021/07/10