出版社内容情報
あらゆる男たちを魅惑し惹きつけ破滅させるルル.『地霊』では夫になった三人までもが彼女にきりきり舞いしながら死んでゆく.ルルとはいったい何者なのか.世紀末の社会の虚偽・退廃を,ルルを通して描いたヴェデキント(一八六四―一九一八)の戯曲は今も驚くほど新鮮である.ルルを題材にしてアルバン・ベルクはオペラを作曲した.
内容説明
あらゆる男たちを魅惑し惹きつけ破滅させるルル。『地霊』では夫になった3人までもが彼女にきりきり舞いしながら死んでゆく。ルルとはいったい何者なのか。世紀末の社会の虚偽・退廃を、ルルを通して描いたヴェデキントの戯曲。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
61
一人の女性の絶頂から転落までを描く。谷崎潤一郎『痴人の愛』やモーリス・ポンス『マドモワゼルB 』を例に出すまでもなく、男を破滅に導くファム・ファタルものは文学や芸術の一角を占めている。本書もその系譜に連なる一冊。ただ今まで読んだその手の小説とは違い、本書の主人公ルルは謎めいた所はなく、受け身で自分に素直なだけ。男たちは自らの愚かさを彼女に投影する事によって勝手に破滅し、彼女もまた自ら堕ちていったように感じた。ただ思うがままに生き、デウス・エクス・マキナによって終幕となる、その様子は極めて魅力的でもあった。2018/09/10
藤月はな(灯れ松明の火)
15
空っぽの魂を持っているという獣のように自分の欲に素直で怠惰な女、ルル。彼女に巻き込まれる人々は彼女自身を見ない場合もあれば、彼女の性質を嫌悪しながらも魅せられ、利用して破滅していく。自分の美点のみを見る画家の夫に対しては醜い姿も知らしめてやりたいと思い、編集者の夫に対しては利用されていると知りながらも尽くしながらも殺し、若い正義感ある令嬢すらも憎みながらも守りたいと思ってしまうルルは興味のあることだけに関心を持ち、残酷で思わせぶりで翻弄させながらもいざ、事に及ぶとなると純真になる「女」という性質の体現だ。2012/09/21
twinsun
8
魔性の女ではなく愛着障害の不幸な女と母性と物欲にすがる幼い男たちの物語。幕切れがあまりに凄惨で言葉にならない。これほどまでに人は人の不幸に飢えているものなのだろうか。拍手喝采するものには地獄の門が開かれるだろう。ルルに輝ける天昇あれ。 2021/12/03
Hepatica nobilis
6
ベルクのオペラの原作。原作だけならヴォイツェックよりもこちらの方が面白いかもしれない。
Nemorální lid
5
『男性社会の男性たちが、自分の願望する女性像を勝手に投影する鏡のような存在』(解 p.301)であるルルを中心とした二部作を当著は収録している。『一切が(芸術までも)商品化されている世紀末の市民社会の秩序』(解 p.302)を根底から揺るがす存在であった彼女は、やがて自らを商品化することで破滅する。彼女は『女性の化身であり本体である』(解 p.301)以上、揺るがされた既存秩序が齟齬によって立ち直り、男性的市民道徳がまた完成するのである。皮肉にも、誰かの鏡像で在り続けたルルの神話は「自分」で崩れるのだ。2018/12/17