出版社内容情報
アラルコン（1833‐1891）は19世紀におけるスペイン文学正統派の作家．ことに「三角帽子」は古来スペインに伝誦されている民間詩「市長さんと水車のお神さん」に取材する軽妙な作品でその上品なユーモアと力強い戯曲的構図とによって，たしかに「スペイン短篇の王者」の評に値いする．
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
66
美人の妻がいながら、他の男の美人妻に手を出す市長。彼の身勝手さは、自分は権力者だから何をしても許されるという思いから生じている。だからこそ、その権威の象徴であるマントと三角帽子をつけずに家に戻ってきた彼を、「あなたは、この家の主の市長ではない」と、妻に断罪されてしまう。身勝手な男が、策略の裏をかかれ、みっともない姿を人前にさらす羽目になる、その小気味よさ。その男の身勝手さを暴き正しく裁く、賢く、美しい妻たち。それにしても、妻に裏切られたと思った後ルーカスとっつあんが取った態度にはちょっとがっかりだった。2018/03/18
藤月はな（灯れ松明の火）
27
『背の高い女』の怪談で有名なアラルコンによる恋愛喜劇。醜男だが気のいい亭主とそんな夫にベタ惚れな美人の妻、せむしで醜男な神父付きの従者に起こる三角関係を描く。シェイクスピアの『オセロ』のように気高くも自尊心の強い亭主の傍目からはおかしい勘違いと人々の突拍子もない言動が爆笑を誘いつつも去りし日を懐かしむような大団円にほろりと来てしまいました。2013/09/27
まどの一哉
4
我が儘でアホなエライさんとすばしっこい追従者、服装を取替えて人物が入れ替わったり、市長が女房に頭が上がらなかったり、コメディとしての古典的な設定や展開はあるが、それでも陳腐にならずおもしろい。単なるキャラクターとしての役割以上に人物の言動がリアルなのでニヤニヤしてしまう。さすがによくできている。2016/06/01
AR読書記録
4
これは楽しい。下心と行き違いと愛情と嫉妬とが織りなす、絵にかいたように見事なドタバタ劇。バレエにもこんなにユーモラスな演目があるのか、いいな。しかし、わたしが読んだのは2008年の第11刷でいかにも新しそうな文庫本だが、いざページを見ると旧字旧仮名の見るからに活版な古い字面、奥付けを見れば1948年の3刷改版がそのまま増刷を続けているらしく...岩波文庫さすがや..2013/09/29
