出版社内容情報
法制史のパイオニアである著者(一八七七―一九六七)が,元服・養子・婚姻・家借・手附・離婚・相続・遺言等の江戸時代の私法二四項目を,近松の世話浄瑠璃や西鶴の浮世草子等に材をとって簡潔に説明した名著.宮武外骨が収録した木版画二八葉が当時の民俗世態を彷彿させる.巻末に文学書目一覧・索引を付す. (注・解説 石井良助)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
bapaksejahtera
14
現著作は日本法制史の大家の論文。江戸期の私法に関し元服養子婚姻相続遺言等24項目の実例を浮世草子や院本等の軟文学から引用し、東西の差異、武家民衆の別に照らして具体例を述べる。宮部外骨が着目して大正12年出版された。本書は再刊。引用される文章はもとより地の文も当時の法学者の文章らしく難解で、今日どれ程の人が読みこなせるか疑問だ。古来分割相続を基本とした伝統は、江戸期に遺言を原則しつつ民間に残り、武士は秩禄継承を目的とする相続に変容。家督は本来祭祀継承を伴う家長権の謂だが、その原意を失って明治民法に繋がる。2023/04/10
シンドバッド
6
大変面白い本であった。『私法』に惑わされこれまで読むのをためらっていたが、あにはからんや、興味深い内容であった。2016/10/26
にゃん吉
4
元々は学術論文とのことで、100を超える江戸期の浄瑠璃等の文学に出てくる担保、手形、婚姻等の私法上の事項を挙げて、ときにローマ、ゲルマン法との比較も交えつつ、その特質等が示されています。宮武外骨が、古版画の挿絵を入れ、跋文を書くなどして出版されたとの出版の経緯もまた興味深い。現代私法との連続を感じさせる私法上の事項も興味深いですが、契約成立の確証として、当事者互いに拍手をしたという手打ちの慣習、親の懲戒権としての座敷牢、勘当といった、近現代と隔絶した事項がまた興味深くありました。 2022/10/12
毛竹齋染垂
2
こんなのを急に某教授の還暦記念論文集用に書いちゃうんだから中田先生も相当お茶目である。更にそれに乗っかる外骨先生もお茶目である。この明治の「ダブルお茶目」が生み出した奇書、それが本書である。 内容は日本近世の民事慣習に就いて、其れを外国法の概念と比照させることでその曖昧な性格の外堀を少しでも埋めようと試みたものだ、と理解してよいのであろう。先の方の書評にもあるように、その「お茶目」故の脱線を真面目に本筋に戻そうとする石井先生の解説もいじらしい、いえ失礼、素晴らしい。2011/12/22
Mentyu
1
法制史の名著ということで薦められていたので読んでみた。内容は江戸時代の書籍や川柳に見受けられる法手続きについて、西洋的な近代の法概念で検討を加えるというもの。本書冒頭には法制史の淵源には法的淵源と非法的淵源があるということが解説されていて、この本は非法的淵源から法制史を描き出すという試みになっている。アナール学派とまではいかなくても、こうした試みが日本法制史の中で、早い段階から試みられていたというのはなかなかおもしろいなと思った。2015/12/29