出版社内容情報
「悪を正す」「豊かな者から奪う」「不死身」-民衆のヒーロー=義賊はさまざまな伝説に彩られている.実像としての義賊,そして伝説化の過程とは? 有名なハンガリーの義賊を対象に,民衆の記憶としての歴史を考える.
内容説明
「悪を正す」「豊かな者から奪い、貧しい者に与える」等々、民衆のヒーロー=義賊はさまざまな伝説に彩られている。義賊は実在したのか、「盗賊」とどこが違うのか、どのように伝説化したのか、またそれは何故なのか。ロビン・フッド論争から説きおこし、ハンガリーの国民的義賊シャーンドルの検討を通じて、民衆の記憶と夢を考える。
目次
序章 鼠小僧とロビン・フッド
1 世界史上の義賊たち
2 義賊像の誕生
3 社会的正義の体現者
4 略奪と殺しのモラル
5 民衆社会の周辺で
6 地域権力との関わり
終章 記憶された歴史=民衆の夢
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬弐仟縁
9
民衆は何を信じて生きていったらいいか、の規準ともなるような義賊という存在。正義の義か。日本でのタイガーマスク現象のようなのもそうなのか? 救世主待望かもしれない。ホブズボウムの「豊かな者から奪い、貧しい者に与えた」(123頁)というのは、なかなか難しい話ではあるが、理想的な社会かもしれない。奪う、奪われる、というのはいい表現ではないのだが。要するに、富の再分配の仕組みができていないのが問題なだけで。2013/03/12
プロメテ
6
ハンガリーの歴史的義賊、ロージャ・シャーンドルについて書かれている。別の著作でバラッドという形の詩で表現されている義賊という生き方に惹かれるところがあったからだ。時代は19世紀から20世紀、特に農工から近代化されていく過程で生まれたアウトローの野蛮な正義は、ロマンティックな漫画のようで素晴らしいと思った。あの手作りの最後の時代、国々で産業化工業化される前の世界観の手作り感に溢れた村や人々の息遣いを感じることができた。もはや今はあり得ないだろう。もう領主もいないし、彼らのために行動する意義も欠片もないから。2024/04/24
perLod(ピリオド)🇷🇺🇨🇳🇮🇷🇿🇦🇵🇸🇾🇪🇸🇾🇱🇧🇨🇺
5
再読。1996年著。著者の専攻は東欧史・ハンガリー史。 義賊についてその定義と著名な義賊を示し、ハンガリーにおける歴史上の義賊、ロージャ・シャーンドルについて論じた本。なおハンガリーでは日本と同じ姓名の順で、シャーンドルが名前。 中々に興味深い内容で、タテマエばかりの世の中にこうした存在を求めるのはおそらく古今東西同じのはず。それにしても東欧から中欧にかけての大変厄介な状況の一端が窺え、もっと後にヒトラーを生じさせる母体となったのだから安易に片付けられない。→続く2021/06/25
印度 洋一郎
4
19世紀中期のハンガリーで活躍(?)した盗賊が、民衆の中で義賊へとイメージが変わっていく過程を考察している。ロビン・フッドや鼠小僧よりも資料が揃っているので、時系列で義賊へと変わっていく実態や、その背景となったハンガリーの社会情勢や民衆が「義賊」に託す普遍的な願望にも踏み込んでいる。「盗みはしても、非道はせず」とか「官憲とは戦っても、国王や皇帝には忠義を尽くす」とか、義賊につきもののイメージには、何がこめられているのかを考えるのも面白い。裁判記録によると、当の本人は余り深い事を考えていなかったようだが。2014/07/15
中島直人
4
ハンガリーの義賊、ロージャ シャーンドルについての考察。社会経済的背景、民衆の期待、知識人(作家)の力により、その姿が実態から乖離していく様が語られる。その現実の姿、社会的な背景が異なるにも関わらず、理想とされる姿は、世界各地で共通しているというのは面白い。2013/06/08