内容説明
万葉集が庶民の素朴な生活感情を歌っているとする通説は、実は疑わしい。方言で詠まれた歌がほとんどないことでも分るように、その成立は宮廷が政治的に形成されていく過程と切り離せないのである。著者は近代的感性を安易にあてはめる古典解釈を斥け、村落共同体に発生した神謡に歌の始源を探り、万葉集の表現構造を精緻に分析して、日本の古代世界像を構築する。万葉学に新しい地平を拓く意欲作。
目次
序章 〈うた〉とは何か
第1章 神謡―歌の発生
第2章 神謡の表現構造
第3章 歌の呪性
第4章 万葉集と〈生産叙事〉
第5章 万葉集と〈巡行叙事〉
第6章 地名と枕詞・序詞・歌枕
第7章 恋の歌
第8章 宮廷生活と歌
第9章 万葉集の文学史
第10章 孤独の内景
感想・レビュー
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うえ
5
「神のことばを語るのは、実は人間である。だから神のことばを語るとき、人は神になっていなければならない。神になるとは神が人に憑依することであり、個体が共同体の象徴になることである。それにはそれなりの手続きが必要であろう。その手続きが祭りの空間といってよい…山へ入る前にひとりで行うのも祭りであり、病人を治療するのも祭りである。なんらかの祭りにおいて、個体は共同体に憑依されて神になり、神のことばを唱えた。そして神のことばは、始源の世をもたらしたり、病人を治療したりする呪力をもった」2019/02/23