内容説明
平安時代以降の日本仏教には、二つの強い流れがある。「生」の意味を追求した密教と、「臨死」の課題を背負って発展した浄土教である。本書は、空海の密教をはじめ、法華経信仰と阿弥陀信仰、山岳修験と山中浄土、親鸞の海上浄土など、二つの伝統仏教を対比交錯させながら、浄土に往生するという思想の探索をさまざまな角度から論じる。日本人の心底深く流れている浄土信仰に光を当てた注目の書。
目次
1 日本人の浄土信仰
2 山岳信仰と山中浄土
3 密教と修験道
4 鴨長明の浄土
5 親鸞聖人の浄土
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
9
「時をかける少女」(細田守)を観る度に思うことがある。絶望の未来から来た青年は、未来にはもはやない絵画、白梅ニ椿菊図を観にやってきた。日本中世の飢饉、大戦争の時代「世界が終わろうとしてた時」に希望をもって描かれたという絵。彼の居た人の少なくなった絶望の未来とはどんな世界なのか、そして絵の描かれた中世とは。本書は日本中世の仏像、絵画から浄土の姿を読み解く。中国からの影響で生まれた二河白道図というジャンルも検討される。「室町時代まで制作されたが、そこには来迎図の楽観的な構図とは異なる悲観的な人間観が存在する」2020/03/30
可兒
5
日本人にとって、浄土とはどこか遠くの存在ではなく、近くの海や山であったという解釈。宗教者各人にとっての「異郷」にかんする論がとても興味深い2009/08/07
海辻
2
平家納経の見返し絵から女人成仏への祈りを、不遇の人生を送った鴨長明の方丈記から社会を斜めに見ながらも浄土への執着を、それぞれ考察していた部分は知識のひとつになりました。山岳修験から見た山中浄土観は面白かった。山にこそ浄土があるという思想、古代から神は春になると山から里へ降りてきて秋には再び山へ戻るという日本人的な信仰と合致してます。印象的だったのは、山の端にかかる月や雲がかかる月、水平線に沈み行く月など、儚さを感じさせる月にこそ日本人的に惹かれるものがあり、そこに浄土を思うのだろう、という話。確かに。2013/01/30