内容説明
祖国ドイツを愛する忠実な軍人であり、「心をもつ一人の人間」であったアウシュヴィッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘスが、抑留者大量虐殺に至ったその全貌を淡々とした筆致で記述した驚くべき告白遺録。人間への尊厳を見失ったとき、人は人に対してどのようなこともできるのだろうか。
目次
第1部 わが魂の告白(幼い一匹狼;戦争に憧れて;義勇軍志願;獄窓の中で;母なる大地へ;ナチ親衛隊に帰る;非国民との闘い ほか)
第2部 ユダヤ人と私たち(ユダヤ人をどう処理したか;ヒムラー隊長と私)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こばまり
66
巨大で異常な装置に組み込まれた哀れな中間管理職像を強調してみたとて、おぞましさは消えるものではない。独特な生真面目さで任務を遂行する姿に戦慄はいや増す。しかし己が身一つでこのシステムにどう抗えただろうかとも思う。2020/10/29
Willie the Wildcat
63
人の心と組織を狂わせる過程。非日常も、それが続けば日常となる。組織の求める成果を通した達成感。宗教への失望、義勇軍時代の虐殺などが、著者の神経をマヒさせたのかとも推察。一方、真面目な(?)反ユダヤ主義、ユダヤ人の金が収容所に災い(?)を齎すなど、言葉の端々に心身に染みついた偏見を垣間見る。戦争が人を狂わせた、という論理だけでは納得しきれない印象。矛盾が矛盾を招く結果、”見せかけ”の正論となるのか。民族の純粋性とは優越性を意味するのだろうが、嫌な響きだ。2016/05/15
キムチ27
61
思想評論家片岡氏の手による本邦初訳から20余年。「ベルリンの壁崩壊」前に逝去されたナチズム研究家の雄 ブローシャ―ト氏の優れた示唆に導かれ 幾重にも積み上げられていく「政治・犯罪・モラル」のダイナミズム。何故 ヘスの如き「一般良識を装う」人が生まれ社会に存在するのかを解明することは脳の理解力を凌駕する。読み続けるにはかなりのタフネスを要求し、大袈裟だが血反吐を吐く想いで頁を捲る。強制を伴わぬからこそ自由に自分を吐露したと語るヘス。しかし、死の収容所所長として君臨したのではなく、任務に応じたと平然と語り、2021/12/26
GAKU
59
アウシュヴィッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘスの手記。加害者側が書いたホロコーストに関するノンフィクションを読むのはこれが初めてです。読む前はヘスの事を、冷酷非道、サディスティックで、残忍な人間とイメージしていたのですが、こちらを読む限り全然違いました。ここにかかれているヘスは盲目的に、上司の命令を忠実に実行する中間管理職といった感じでした。悲惨な虐殺の描写や、それに対する本人の心理が淡々と、第三者的な立場で書かれており、何か言いようのない違和感、不快感を感じました。どこかで自分を美化しているのかな? 2016/05/26
まると
19
アウシュヴィッツの元司令官が、処刑される前に著した手記。子供の命乞いをする母親の姿などに心を動かされながらも、総統命令は絶対なのだから冷酷・非情に実行したのだとひたすら弁明している。ガス室の窓からユダヤ人がバタバタと倒れていくさまを冷静に観察する彼に「自分も心をもつ一人の人間で、悪人ではなかった」と言われても説得力は生まれない。ただ、読んだ限りはアイヒマンと同様、特異な性格異常者ではなかったようだ。自分が同じ立場なら、命令に抗して職務を投げ出せただろうか。信念をもって組織のくびきを逃れる勇気が必要になる。2020/07/24