内容説明
障害を持った兄との関係を通して、家族と社会、現代という時代、人間の未来に切実に対峙していく女子大生のマーちゃん。現実の困難さの向こう側に希望される、穏やかで静かな生活。現代人の魂の行方を人間の優しさとともに描く純文学連作小説。
目次
静かな生活
この惑星の棄て子
案内人(ストーカー)
自動人形の悪夢
小説の悲しみ
家としての日記
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
32
自閉的だと思った。だが、自慰的ではない。むしろこの作品集において著者は静かに、だが確実に自らを解体していく。著者の娘が書いた私小説のスタイルを通して綴られる著者の日常は、そのまま「静かな生活」を夢見ながらその「生活」の中でさまざまな困難にぶつかり、だが確実に成長を遂げていく。時にタルコフスキー『ストーカー』を論じたりしつつ、彼らは日常の中に神をも引き合いに出す壮大な会話を展開させ、日々の中に崇高なものを幻視する。この幻視者としての資質は明らかに大江健三郎が備えていた体質であり、奇妙で面白い私小説として在る2023/03/15
Nobuko Hashimoto
24
この連作短編集に、タルコフスキーの映画「ストーカー」について書いた一篇「案内人」があるというので手に取る。予想外に文体も内容もしっくりきたので、全編を通して読んだ。大江氏の長女「マーちゃん」が語り手という設定で、知的障害のある兄「イーヨー」と、受験生の弟「オーちゃん」が、両親の長期海外滞在中、3人で過ごした日々を思い起こして書いたという体裁をとっている。大江氏自身が語り手である連作短編集『新しい人よめざめよ』よりも、大江氏に対して批判的なのが面白い。それが長女の本心かどうかはわからないが。(つづく)2021/10/04
やまねっと
4
たぶん大江健三郎の次男をモデルにした目線を交えた短編集。 主人公の両親は海外にいて日本にいない中、障がいを持った兄「イーヨー」との生活で色々考える作品が全てなのだが、大江健三郎独特の文体で、なかなか話を理解するのに時間がかかる。 次男の目線で書くというのが本当にあったことのように書くという技術がすごいと思った。流石としか言いようのない小説だった。 難しいが大江健三郎の小説でもまだ読みやすい部類にあると思う。 今年も半分を過ぎ、ひと月一冊ずつ読んでるが、まだ大江健三郎を理解するには足りない感じだ。2021/07/31
Cozue
3
読書会の課題図書。会では「なぜマーちゃんの一人称小説にしたのか」が話題に。 「なにくそ、なにくそ」と歯を食いしばる若い女性マーちゃんを主役にすることで、未熟な者への期待、未来への希望を描いているとの意見に共感しました。 ファンとしてはいつまでも読んでいたい「静かな生活」の家族の世界。この続き…大江さんの最晩年の暮らしまで、このように読んでみたかったと、かなわぬ願いを抱いています。 (現実の家族としては、小説に書かれないほうが静かな生活を過ごせると思いつつ…)2023/06/18
モリータ
3
◆1990年講談社刊。◆2023/3/19六甲古本市で拾い、既読本棚へ移す。