内容説明
時代を越えてフィリピン史に通底しているのは、民族抵抗の精神である。それがフィリピン人意識として浮上してこなかったのは、政治と教会がそれを押しつぶし、覆いかくしてきたからである。これまでのフィリピン史はこの精神の連続した存在に十分な評価を与えてこなかった。スペインの武装宣教船団来航後の長い植民地時代を通じて、西欧と闘い続けたアジア唯一の戦闘的民族の軌跡に、本書は肯定的な光を当てるものである。
目次
フィリピンの歴史を遡上する
盗まれた楽園
カトリック宣教と原住民
全民族の抵抗運動へ
中国系メスティーソの勃興と抵抗
フィリピン革命
アメリカのフィリピン占領
「友愛的同化」の虚と実
1930年代の民族主義の軌跡
日本軍のフィリピン占領とエリートの“対日協力”〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fseigojp
13
スペイン人の到来以前の歴史が皆無に等しいところが、逆にこの国の悲惨さを物語っている2015/08/05
coolflat
12
フィリピンの歴史はマゼラン回航以後から始まる。それ以前の記録はほとんど残されていないためだ。なおマゼラン以降は、スペイン→米国→日本→米国と、常に侵略された歴史であった。28頁。エンコミエンダ制度はハイチ、キューバなどで始まり、次いでメキシコ、ペルーなどで実施された。この制度は貢税徴収とキリスト教布教のため、フィリピン征服に功績のあった軍人、民間人、修道会に広大な地域を委託するものだと説明された。しかしそれは建前にすぎず、制度の最大の狙いは、全国から貢税を集め、植民地経営の費用を現地で調達する事であった。2016/10/29
Akihiro Nishio
4
物語歴史シリーズも本書で、5冊目。アジアで西欧に出会った時点で唯一国家を持たなかったフィリピンである。スペインによる支配がイギリスと全く違うこと、より多くの矛盾を持っていたことを知った。その次に現れたアメリカの二重舌外交、共産主義、日本、マルコスという流れが良くわかった。2015/10/04
CCC
4
フィリピン視点、他国の影響のほとんどがマイナスにしかなっていない……。被害者、被支配者の歴史という印象が強く残った。2014/08/26
えふのらん
4
略奪的なスペインによる第一次植民地支配が終わったと思いきや、友愛的同化を盾にした米によって間接侵略が行われて第2次植民地支配が成立。それを日本が崩壊させたと思いきや、日本に逆襲した米によって新植民地支配が成立。独立という言葉が世界史、特にフィリピン史の中にあっては具体性をもたないことを思い知らせてくれる。2012/01/10