内容説明
伝統中国社会において科挙とはいかなる存在であっただろうか。公平かつ客観的な試験であり、だれにでも社会的成功をかちとることができる。そんなイメージが科挙にはつきまとっている。これは試験制度という視点からとらえた虚像にすぎない。科挙を、中国の政治・社会・文化構造のなかに置き直してみるとき、科挙の果たした真実がはじめて明らかになる。
目次
科挙と中国社会
1 科挙を理解するための視点
2 エリートへの登竜門
3 官僚昇進の仕組み
4 皇帝と官僚
5 科挙合格のもたらしたもの
6 科挙の虚構と真実
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kenryo
1
受かれば万々歳かと思ったら、結構給料少なかったり 試験実際は皇帝の専制支配の正当化を目的としていたり 合格の門は平等に開かれていると思ったけど実際不平等なところがあったり 科挙のイメージが刷新されて面白かったです2024/01/04
いまにえる
1
まとまっていて読みやすかった。科挙は1000年以上前に始まる官僚制であるが、一方親の文化資本がある程度反映されるなど完全に公平ではなかった。また、儒学中心で実務能力より徳を中心に選ばれるためイデオロギー的偏りがあり、また暗記量の膨大さから我慢の効く従順な人が選ばれ、結果として皇帝の独裁的な政治の手足となったのではないかとも思う。貴族に対して抱く危機感から皇帝が編み出した制度かもしれない。まあそれにしてもこうした制度を編み出したことはすごいし、現代の官僚制や受験戦争に関する問題を考える上でも参考になると思う2017/08/02
こずえ
0
科挙の実態はなかなか記述されておらず興味がある人は読むとよい2017/07/18
佐藤丈宗
0
科挙の諸相をコンパクトにまとめあげた一冊。記述は科挙が制度として完成した宋代が中心である。科挙官僚の給料の話や、中央官僚より地方官僚の方が「身入り」がよいとか、今風にいえばキャリアとノンキャリアによって出世のスピードに大幅な差が出るなど面白い話も出てくる。しかし、あの時代の中国で理論上はどんな身分にも高級官僚になれる道が開かれていたことや、それによって貴族層が穏やかに消滅していったことは驚くべきことだ。2016/09/21
Annette1
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宋代の科挙や官僚制を足がかりに、生活様式や収入源などに至るまで官僚社会の有り様について簡潔に描いた好著。ただ、ほとんどが宋代の記述で、唐や明清については比較対象としてたまに触れられる程度なので、宋代以外の話を特に知りたい人には向かない。2016/01/05