内容説明
庭と庭の草木は、時代の文化を映し出す。スクワイアラーキーと呼ばれる大土地所有者による支配体制のなかで、十八世紀のイギリスを、カントリー・ハウスと風景庭園の造営の熱が席巻した。産業革命の進行と、それに乗じた中流階級の社会的進出は、「羊歯狂い」なるもう一つの熱狂を生み出す。風景から室内への植物の移動は、模倣や憧れと、排斥や反発のまじりあう、ジェントルマン文化とミドルクラスの文化との交錯の結果であった。
目次
イギリス人と植物
1 キュー植物園
2 植物園の時代
3 貴族の庭園、市民の庭園
4 ヴィクトリア朝の花の文化
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kasim
10
風景庭園、プラントハンター、シダ狂い、と魅力的な話題揃いの英国植物文化史。叢書の性質上、文章は堅く個々の記述は短いけれど必要な点は押さえてあり、ここから出発してまた他にも読みたい。帝国が収集した外来種とシダのような在来種への愛情の共存が、結局イギリスらしい折衷主義、バランス感覚にまとめられる結末はすごい文化論だと思う。イギリスの古典園芸花8種が桜草、チューリップ、撫子、カーネーション、アネモネ、ラナンキュラス、ヒアシンス、水仙というのは初めて知った。バラは草花でないし、菫は野草扱いで入らないのかな?2017/05/07
星規夫
0
小冊子戦術第十六弾。華やかなりし大英帝国の園芸は、新たな支配者層としての自覚を持ち始めた中産階級物の「合理的(かつ健全)な趣味」として普及していった、というのは興味深い。また、サブスクリプショナルライブラリーやカントリーハウスなどに見られる富裕層の公共心の発露(仲間内だけとはいえ)は、日本では見られない、素晴らしいものだと思った。2012/08/05