内容説明
「アウトサイダー・アート」とは、精神病患者や幻視家など、正規の美術教育を受けていない独学自修の作り手たちによる作品を指す。20世紀初頭にヨーロッパの精神科医たちによって「発見」されたこの芸術は、パウル・クレー、マックス・エルンスト等の前衛芸術家たちにも多大な影響を与えた。戦後には、フランスの画家ジャン・デュビュッフェがヨーロッパ各地から作品を収集し、それを「アール・ブリュット(生の芸術)」と呼んで賞賛したことから「価値」が高まった。近年、日本でもそれらの作品への関心が急速に高まりつつある中、モダン・アートが置き忘れてきた「もうひとつのアート」の魅力に迫る。
目次
第1章 アウトサイダー・アートとは何か
第2章 ヨーロッパ前衛芸術家たちによる賞賛
第3章 アウトサイダー・アートの「発見」
第4章 日本のアウトサイダー・アート
第5章 未知の領域
第6章 描かずにはいられないから描く―五つの展示室から
著者等紹介
服部正[ハットリタダシ]
1967年兵庫県生まれ。兵庫県立美術館学芸員。大阪大学大学院文学研究科西洋美術史学専攻修士課程修了
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヒロミ
49
「アウトサイダーアート入門」と比較すると衝撃は少なめ。淡々とアウトサイダーアートについて俯瞰的な視点で語られている。表現欲求に突き動かされて描かれた絵はたしかに胸を打つ。一方、アカデミックな場所で絵を学んだ人の職工的な絵画も素晴らしいとも思う。しかしアウトサイダーアートがプリミティブな欲求によって描かれた作品である限り、鑑賞する我々は衝撃を受け続けるのだろう。2016/03/19
Akihiro Nishio
26
アール・ブリュットの本を翻訳することになったので(まだ確定ではないが)、背景や定訳を知るために関係書を読み始める。まずは読みやすいものから。こういうジャンルがあることも知らなかったが、大丈夫か?自分。内容だが、日本のアール・ブリュットや、その創作者たちの紹介もあって良かった。筆者がアール・ブリュットに本気で魅せられていることがわかる。日本には精神病院から発信されたアール・ブリュットは未だないという。精神科患者さんの書初めや七夕飾りが大好きで、写真集を出したいと思ったことがあったが、やっておけば良かった。2017/10/18
阿部義彦
17
著者は兵庫県美術館の学芸員。いわゆる、正規の美術教育を受けていない生の芸術をキーワードとしたある意味私たちの想像もつかない偏執的だったり破天荒だったりする芸術に魅せられて企画展などに力を入れてます。何よりも人に見せる事など念頭に初めからない自分のためのみの無私の表現に魅力を感じます。巻頭のカラー図版だけでも圧倒されました。またこの本では最近の日本のアウトサイダー・アートについて大変詳しく喜舎場盛也、富塚純光、小幡正雄、寺下春枝など初めて見る作品などが満載で類書にはない現在進行の視点で語られています。2015/12/26
gtn
13
殴り書きのような絵だと言われることが光栄とパウル・クレー。幼い息子の絵の方が良い出来であり、己は脳の働きを完全に抑え込むことができないとも。アウトサイダー・アートの無垢と尊さを表現している。しかし、日本においては、その芸術が教育の手段に利用されるとの著者の指摘に頷く。福祉施設の作品展のつまらなさ。非障害者をとうに凌駕しているのに、入所者はこんなに頑張っているんですよといいたいのか。芸術を貶めている。表現者をなめている。2019/03/24
イノ
12
「奇書の世界史」でアウトサイダー・アートの存在を知り購入。 知識や技術を独学のみで覚え作品を作り上げたものであるが日本では一般的に障害者芸術を指すらしい。 その特性ゆえに一代限り、義務教育もすり抜けないといけないため現代ではその領域に踏み込む事すらできない。 教育を行うのは正しいのか? 壮大な落書きなのか芸術なのか? 内容もだが、捉え方自体の意義をも見出して考えさせられて面白かった。2020/01/04