出版社内容情報
ちくま日本文学021 志賀直哉
殺ぎ落とした文章で
人間の内側を覗く緊迫感
目次
或る朝
真鶴
速夫の妹
清兵衛と瓢箪
小僧の神様
赤西蛎太
転生
荒絹
クローディアスの日記
范の犯罪
剃刀
好人物の夫婦
雨蛙
冬の往来
老人
矢島柳堂
焚火
網走まで
灰色の月
奇人脱哉
自転車
白い線
盲亀浮木
沓掛にて
リズム
万華鏡
【解説: 村松友視 】
著者等紹介
志賀直哉[シガナオヤ]
1883‐1971。宮城県石巻の生まれ。学習院より東大英文科に進んだが、このころから小説家を志し、「或る朝」「網走まで」などを書く。雑誌「白樺」に参加。父親との確執により家を出て尾道、松江、奈良などを転々とした。その間のことは「暗夜行路」「和解」にくわしい。以後は短篇が主で、「赤西蛎太」「城の崎にて」「剃刀」「小僧の神様」など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
40
文章が上手いと評されるのは、手数を掛けずに二者関係(クローズアップ)をつくるのが上手いため、読者が小説世界のフレームワークをつかむのを容易にしているからでしょう。後半にエッセイがありますが、小説とエッセイの区別が無いということと、作品の評価が表裏の関係にあると思います。つまり、話の展開が乏しく構築性が無い、という否定的な評価は自然な文体と共にある特徴で、良くも悪くも泰然自若としている作者の態度そのままと映ります。ジェンダー表象に嫌悪感を持つのも、時代的な表現というよりも作者の開き直りに理由があります。2022/04/23
カブトムシ
39
この文庫本は、新しい編集で志賀直哉の文学を全体的に紹介しています。2008年に初版が出ています。日本文学全30巻の一つです。私は中国で日本語を教えていました。ある女子学生が卒業論文を志賀直哉でやりたいというので、この文庫本をお貸ししました。その後、論文が出来上がって、返してもらいました。すると、新しい本だったのがボロボロになっていました。よく勉強してくれたのが、嬉しかったです。中編や長編は割愛して、短編のみが編集されています。今日は「沓掛にてー芥川君のことー」を再読しました。沓掛は、軽井沢の昔の地名です。2019/07/31
燃えつきた棒
30
「速夫の妹」、「城の崎にて」、母の思い出を描いた「白い線」、芥川との交流を描いた「沓掛にて」などが心に残った。 「城の崎にて」を読んで、父の最期を想い出した。 数多の死を目にしてきたであろうかつての帝国軍人も、その瞬間恐怖に捕らわれたようだった。 父は自らの死期が訪れたことを知ると、「死ぬんだ。死ぬんだ。」と叫んだ。 母のために永らえんと自らを律し、93歳まで生きた父。 最後まで父の言葉が僕の胸に響くことはなかったが、骨壷の中の父の骨はずっしり重かった。2017/08/02
だてまき( ˘ω˘)スヤァ
20
『城の崎にて』を含む名作短編26編。無駄がなく冷静な文体。リズム感がよくイメージしやすく完結で、お手本のような文章。なんでもないような瑣末な出来事を、ここまで完成度の高い「小説」として仕立て上げる技術は、さすが「小説の神様」。なかでも『剃刀』が気に入った。仕事に妥協を許さない職人の心に、発作的に生まれた狂気。職人の悪意なき衝動を淡々と描いたこの作品の最後は、背後からひっそりと冷たい刃を押し当てられたようだった。殺意の有無を問題にした『范の犯罪』は、作中で判決が出てなお、自分の中では答えが出せずにいる。2014/07/14
にゃん
14
読みともさんの「剃刀」の感想が素晴らしくて恥ずかしながら、はじめて志賀直哉を読んだ次第です。ほんとに恥ずかしいことに、こんなに読みやすく、かつ、面白いことに驚きました。「剃刀」はもう、始めっから何かありそうな緊迫感が凄いし、「小僧の神様」「網走まで」も、声に出して読みたい美しい文章。切ない内容に心打たれました。他作も読んでみたいです。2019/07/21