内容説明
ジェンダー研究者だった著者はある日、認知症の診断を受ける。脳が壊れていく―しかし、書くことだけはなんとか可能だった。子ども時代のこと、家族のこと、生活のこと、症状や日常の失敗のこと。自らの観察者となってノートに綴ることが、自分を見つける方法となった。そして迎えるであろう、記憶を、心を失ってしまう時について、ある決断に至る。冷静な観察とユーモア、人間への洞察に満ちた希有な記録。
目次
自分が誰だかわからなくなる前に自分を語る
量子的パフアダーと記憶の断片
消えていく自己の文法
壊れてしまった脳
狂気と愛
死に向かう変身
あえて名前を言わない出口
著者等紹介
サンダース,ゲルダ[サンダース,ゲルダ] [Saunders,Gerda]
1949年南アフリカに生まれ、1984年アメリカに移住。ユタ大学英語学の博士号を取得し、退職するまで同大学でのジェンダースタディー・プログラムの副所長を務めた。夫と共にユタ州ソルトレイク市に住む
藤澤玲子[フジサワレイコ]
フリーライター、翻訳家。1996年同志社大学文学部卒。2006年ニューヨーク州立大学アルバニー校経営学修士課程修了。現在は福井大学子どものこころの発達センター研究補助員として勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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くさてる
15
若年性認知症の診断を受けた南アフリカ生まれの英語学の博士が綴る、現在の自分の状態とこれまでの生涯。そしてこれからのこと。南アフリカで過ごした少女時代の思い出はワイルドで面白く、生き生きとしていて、いろんなことが分からなく、失われていく現在との対比がせつない。それでもやはりわかりづらく理解しにくい記述も多く、読みやすいものではなかったけれど、この分野に関心があるひとなら興味深く読めるのでは。2020/04/22
bapaksejahtera
10
南アに生まれ中年で米国に移住した女性による著。自身の若年性認知症を叙述するが、バス停の降車や下着の着装失敗はおろか、日常生活に完全には自立できなくなっても、ある知識構造を知悉し、知的スキルを活用して人生を送った人間は、老後も専門知識にアクセスする能力を保てる。彼女はこれに望みを繋ぎ、専門の英語学エッセイや、脳神経学知識の習得等を試みる。本書では60歳で認知症が発症した際のメモを挟みつつ上記の知的スキルが披露される。彼女のこの能力のお陰で、ボーア人として育った白人の社会意識について、私もアクセスできたのだ。2021/05/07