内容説明
嘘や騙しをふくむ熾烈な駆け引きを展開するマチンガ。彼らのアナーキーな仲間関係や商売はどのように成りたっているのか。みずから古着を売り歩き、500人以上の常連客をもった著者が、ストリートで培われる狡知(ウジャンジャ)に着目して解き明かす。
目次
序論(マチンガと都市を生きぬくための狡知;ムワンザ市の古着商人と調査方法 ほか)
第1部 騙しあい助けあう狡知―マチンガの商慣行を支える実践論理と共同性(都市を航海する―商慣行を支える実践論理と共同性;ウジャンジャ―都市を生きぬくための狡知 ほか)
第2部 活路をひらく狡知―マチンガの商慣行と共同性の歴史的変容(「ネズミの道」から「連携の道」へ―古着流通の歴史とマチンガの誕生;商慣行の変化にみる自律性と対等性)
第3部 空間を織りなす狡知―路上空間をめぐるマチンガの実践(弾圧と暴動―市場へ移動する条件;「あいだ」で生きる―路上という舞台)
結論(ウジャンジャ・エコノミー)
著者等紹介
小川さやか[オガワサヤカ]
1978年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。博士(地域研究)。日本学術振興会特別研究員を経て、国立民族学博物館研究戦略センター機関研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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tom
21
著者は文化人類学者。大学院生のときにタンザニア(アフリカですぜ)に行き、何年ものあいだ、現地で中古服販売の行商や中間卸元をしながら、商取引に関わる人たちの思考を研究する。たぶんゴキブリなみの扱いを受けている人たちが、行商を成立させているルールを明らかにするため、彼らの中に入っていく。このパワーには絶句する(ほんとうに凄い)。彼らは、金持ちからは法外に、貧乏人には原価割れで売ってしまう。同僚、客との絶妙なバランス感覚、そのツールになるのが「狡知」。資本主義とは違う枠組みがあって、これでも世界は廻る。面白い。2022/03/31
オサム兄ぃ
12
博士論文を元に加筆した厚い学術書。ノーベル文学賞で話題のタンザニアの路上で、零細商人たちが狡知(嘘や騙しを含む、悪知恵)を駆使して生きる姿が描かれ、人類学の目で分析される。当初、昔ブラジル人選手を「日本人に足りないと」呆れさせたマリーシアに似ていると感じた。が、結論まで進むと人間関係を規定するルールや制度の隙間、思考や判断の間に合わない一瞬を埋める「ブラックマター」のように我々の社会にも存在しているのではないかと思えてきた。馴染ない世界かつ門外漢なのに引き込まれ、最後にはジーンとくる素敵な本だ。2021/10/19
DEE
12
タンザニアの路上で古着を売るマチンガと呼ばれる商人たち。彼らに混じり自らも古着を売りながら、いつ消えてしまうかわからない商人とあえてマリ・カウリという信用取引をする理由と、社会に根付くウジャンジャについて考える。 ウジャンジャとは一言で言えばずる賢さ。ウジャンジャを駆使し、消費者やマチンガ同士でさえも騙したり駆け引きしたりしながら、逞しく生き抜いている。助けるが親密にならないというドライな関係と、不法だが商取引の隙間を埋める存在であるマチンガは一つの大きなセーフティネットになっているのかもしれない。2020/07/18
昭和っ子
11
タンザニアで広く行われている路上小売商は、商品の仕入れ先である卸売商ときっちりした雇用契約を結ぶ事を好まないという。卸売商と顧客の間をウジャンジャな(狡知な、ずる賢い)知恵でやり取りし、もっと大きな成果を上げる事に懸けている。それは、その時のそれぞれの状態を慮る裁量に長けた自由度のある取引でもある。西洋的な目で見ると「貧者の抵抗」「弾圧される人々」と見えがちな商人たちの実態の中に、都会を自分の才覚で渡り歩く事に誇りを持っている人々の魅力が描かれていて、長くて大変だったけど予想以上に面白く読めた。2012/11/26
ジュール リブレ
10
ウジャンジャ。。。。。。 日本人に一番欠けているものかもしれない。 狡知。ネガティブな言葉のようで、生き残り、成功を収めるために必要な智慧。ハングリー精神と、精神論で語らずに、生き抜く力を分析するとこうなるのかな。2012/05/12