出版社内容情報
一度酔えば即ち政治を論じ哲学を論じて止まるところを知らぬ南海先生のもとに,ある日洋学紳士,豪傑君という二人の客が訪れた.次第に酔を発した三人は,談論風発,大いに天下の趨勢を論じる.民権運動の現実に鍛え抜かれた強靱な思想の所産であり,日本における民主主義の可能性を追求した兆民第一の傑作.現代語訳と注を付す.
内容説明
一度酔えば、即ち政治を論じ哲学を論じて止まるところを知らぬ南海先生のもとに、ある日洋学紳士、豪傑君という二人の客が訪れた。次第に酔を発した三人は、談論風発、大いに天下の趨勢を論じる。日本における民主主義の可能性を追求した本書は、民権運動の現実に鍛え抜かれた強靱な思想の所産であり、兆民第一の傑作である。現代語訳と詳細な注を付す。
目次
三酔人経綸問答(現代語訳)
三酔人経綸問答(原文)
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
猫丸にゃん太
41
三人の男が酒を飲みながら政治論議をする話だが、先見性が有り過ぎて畏怖の念さへ覚える。書かれたのは明治初期で、その後の帝国主義、冷戦、自衛隊などの概念についても言及している。むしろ、政治の本質のそれぞれが歴史に於いて繰り返されているだけかもしれない。それぞれの男は、西洋近代思想、帝国主義、現実主義と異なる思想を持つのだが、議論することで読者に政治の本質を垣間見せる。国が恨み合うのは実情よりもデマから生じるというのは肝に銘じたい。これは思想扇動の常套手段だ。原文と現代語訳が収録され、ルビがふってあるのが良い。2015/04/01
Y2K☮
38
1887年出版。殺されても殺さない完全非暴力主義を唱え、進んで軍備を無くして西欧列強の良心に訴え、世界平和を達成せんと夢見る洋学紳士。今のグローバリズムに繋がる膨張主義を掲げ、小国は大国の持ち物を奪わねば生き残れない、争いがあるから人も国も強くなると腕を撫す豪傑君。それら極論の問題点を指摘し、民主国家として為すべき当然の事をし、後は穏やかに時期の到来を待つ中庸的現実主義が南海先生。三者共に著者の分身。己同士を議論させて文章に残すのは考えを纏める上で有効だ。中庸=最適とは限らぬ。三者各々の長所を止揚したい。2018/06/11
アミアンの和約
28
自由民権運動家で有名な中江兆民の代表作。全ての国が民主制を採用すれば戦争はなくなるとする「洋学紳士君」と対外強硬派の「豪傑君」が中道の南海先生を交えて議論を交わすという内容。洋学紳士=左派・革新、豪傑=右派・保守と置き換えることができ、我が国の言論空間は今日まで本書の枠内に収まっていると言える。右派と左派の論争に深入りする前に、頭を作っておくのが本書の効果的な使い方だろうか。2023/08/25
壱萬弐仟縁
28
昔の国Ⅰ教養試験文章理解に出た記憶がある。文明の本質=道義の心(14頁)。人間と呼ばれる価値:政治に参加 する権利、財産を私有する権利、すきな事業をいとなむ権利、信教の自由の権利、言論の権利、出版の権利、結社の 権利(34頁)。37頁の官僚批判は痛快。洋学紳士:選挙権で独立の人格に。行政官にへつらわない。授業料不要で 国民は学問を。死刑廃止。関税廃止。読むものには眼の自由を(46頁)。南海先生:社会の事業は、過去の思想の 発現(100頁)。 2015/03/04
双海(ふたみ)
25
現代語訳の100頁(原文は198頁)に「思想とは何か」という問題について南海先生の簡潔な答えが記されていました。本書は全体を通じて面白いのですが、私はそこがいちばん気になりました。2015/06/13