ヴェネツィア―水の迷宮の夢

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  • サイズ B6判/ページ数 151p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784087732399
  • NDC分類 934
  • Cコード C0097

内容説明

本書は、アメリカ亡命後の72年から17年の間、ほとんど毎年のようにヴェネツィアを訪れた詩人の、ヴェネツィア滞在の印象記。彫琢された、美しい文章の、散文詩のような51の断章からなる。ヴェネツィアの水と光をモチーフに、多くの隠喩やアフォリズムを織り込んだフーガのような作品。ノーベル賞受賞作家の小説、本邦初紹介。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

147
著者のブロツキーはロシア系アメリカ人で、1987年のノーベル文学賞受賞者。さて、本書は小説ということにはなっているのだが、プロットらしきものはまったくない。17年間冬のヴェネツィアに通いつめた著者が、その迷宮をさ迷い思索した記録がこれだ。トーンの全体は薄明、あるいは夜の中、また昼間でも濃い霧に覆われていたりする。水路にひたひたと打ち寄せる静かな波や、ラグーナの匂いなどを彷彿とさせる筆致だ。明るい夏の陽光の中にあるのとは、いわば対極的なヴェネツィアだ。冬のヴェネツィアの憂愁はまことに深い。2012/12/30

新地学@児童書病発動中

121
ノーベル文学賞を受賞した露の詩人がヴェネツィアに捧げる一冊。巧緻で陰影に富んだ文章が印象的で、作者の第二言語である英語で書かれたことに驚いた。本文に芥川龍之介が好きなことが書かれているは芥川好きとしては嬉しかったが、ブロツキーの書く文章も芥川龍之介同様にシニカルなところが多い。ただしシニカルな態度が後退して、ヴェネツィアに対する愛情を述べるときは文章自体が詩情を帯びて、多くの人を惹きつけるこの街のように美しくなる。水と音楽を同じものとして描く文章などには、詩人の感性の魔法を感じた。2015/09/01

どんぐり

83
旧ソ連から国外追放され、ノーベル文学賞を受賞した亡命詩人ヨシフ・ブロツキー(1940-1996)のヴェネツィアをめぐる91の断章。冬のヴェネツィアに17年間通いつめた詩人の目に映る水と光に呼び起こされるこの街の記憶。「病人河岸」という言葉や、「水は時であり、美に、みずからの分身を与えてくれる」という詩人の言葉に出会って、須賀敦子のヴェネツィア本をまた読んでみたくなった。2022/06/08

syaori

70
散文詩のような幻想小説のようなヴェネツィア記。語られるのは、冬の星が輝く夜に一人の美女に導かれてヴェネツィアの扉を開いたこと、若い頃友人が貸してくれたレニエの小説によるヴェネツィアへの「デカダントな」憧憬や3世紀の歴史を持つ館での迷宮をさまようような体験、そして町の美、そこへの忠誠について。それらの様々な印象や想念は町を囲む水のように寄せては返し、そのなかを揺蕩うような感覚に酔い心地になってしまいます。作者の「『反射像』別名『この町への想い』」を濾過し編み上げた美しく夢幻的なヴェネツィアを堪能しました。2023/09/15

nobi

69
一見気楽な旅行記風に見えて、現実の一歩先には幻想あり妄想あり、辛辣なコメントも詩的な美学論議もある。ヴェネツィアを軸とした断章群は、したたかで多次元的な構成。その足元を掬われるような感覚と風変わりな都市の浮遊感は似ている。館(パラッツォ)の奥深く進むにつれて、現実から遠ざかって行くような心理とか、少し懐古風の映像に引き込まれていると、えっ?まさかという人物を登場させたり。そんな読者のしてやられた感をブロツキーは折り込み済み。ほくそ笑んで見てそう。でも深い霧に包まれた迷宮のようなヴェネツィアならありうる話。2020/12/03

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