内容説明
絵画は何のために在るのか?写真の登場によって、二十世紀の画家たちは物を見た目そっくりに描くことを超えて絵画の新たな役割・手法を模索する。視覚によらず感覚を通して世界の在るがままの姿を把握し描こうとしたマチス、ピカソ、ルオー、そしてジャコメッティ。この困難な課題に挑んだ彼ら四人の軌跡を通して、二十世紀絵画に明快な鑑賞の指針を与える力作。
目次
第1章 「感覚の絵画」の誕生―セザンヌからマチスへ(写真的視覚の侵入;視角ではなく感覚で描け!―セザンヌと“色” ほか)
第2章 純粋感覚とは何か―マチスからピカソへ(人間を正面から視る―マチスの“色”の軌跡;マチスの肖像画―個性はどう超えられたか ほか)
第3章 見えないものに向かって―ピカソからジャコメッティへ(感覚を歪ませる―戦争を描く手法;『ラス・メニーナス』を描き直す―感覚の歴史画 ほか)
第4章 絵画は何のために在るのか―ジャコメッティからルオーへ(“在るもの”としての人間を描く―ジャコメッティの肖像画;抽象絵画は芸術か―ジャコメッティの問い ほか)
著者等紹介
前田英樹[マエダヒデキ]
1951年、大阪生まれ。中央大学大学院文学研究科修了。現在、立教大学文学部教授。専攻はフランス思想、および言語論。著書に、『沈黙するソシュール』(書肆山田、渋沢・クローデル賞受賞)など
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感想・レビュー
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しろ
14
☆8 写真と絵画だったらどちらの方がリアルか。もちろん写真だと思っていたのは僕だけではあるまい。でも実質は絵画なのかもしれないよ、と。絵画ーー特にピカソやジャコメッティなど近代の巨匠の美術感について、分かりやすく面白く書かれていて勉強になる。知らない人や作品だらけだけど、資料もあるし苦もなく読める。自然を絵画に表すために色んな手法を考え苦悩していたり、知覚と感覚の微妙だけど決定的な差異をとらえたりする彼らはまさに命懸けの芸術家だ。美術の深みをもっと知りたくなる。2011/04/21
hamama
0
丁寧に書かれていて読みやすい。作家や作品の背景にある思想や社会とのつながりは絵画に限定せず、思考の実践の場として広がっていた。2015/05/19
ねぎとろ
0
写真という外的影響からみた20世紀美術。ピカソ・ジャコメッティ論として優れているという印象。ただ、マティスについては、晩年ののっぺらぼうな肖像画の数々が全く取り上げられていないので、片手落ちではないかと思う。 あと、哲学者らしい偉そうな語り口は少し気になった。2012/01/19
おはじき
0
マティスを評するときに、色彩の自立性や平滑な塗りを強調するのではなく、その色彩と対置するようにデッサンに重きを置いて解説してある箇所が腑に落ちた。確かに必然的にフォービスム的な塗りであれば輪郭線について論じなければ片手落ちだよな。また、一般書籍ではあまり論じられないルオーやジャコメッティについての記述があるのがありがたかった。2023/07/01