出版社内容情報
朝日新聞4月29日(日)日曜版トップページ「旅する記者50人」にて紹介されたのがこの本。
祖国も家族も、最後に残った1枚の絵、パウル・クレーの「新しい天使」も手放して唯一ベンヤミンが手元に残した黒い鞄には、ぎっしりと原稿がつまっていた…!”旅する記者”の旅のきっかけを作った書『ベンヤミンの黒い鞄』は好評発売中です。なお、W.ベンヤミン著作集第13巻『新しい天使』は在庫僅少につき、お早めにお求めください。
内容説明
ピレネーを越えれば自由がある…。第二次大戦下、ナチスからのがれ、人生を続ける新しい土地を求めた亡命者たち。その中に、ヴァルター・ベンヤミンの姿があった。ぎっしりと原稿が詰まった黒い鞄を抱え、偽造旅券を手にして。山越えの案内役をはたしたひとりのユダヤ人女性が、自らの亡命の途上で出会ったさまざまな場面をあざやかに回想する。歴史の空白をうめる貴重な記録。
目次
前史 ヴィーン―ベルリン
1 パリ―1940年5月
2 ギュール収容所からの脱出
3 ハンスをさがして
4 ルルドでの画策
5 マルセイユへの回り道
6 男たちへの暗号
7 ベンヤミンの黒い鞄
8 新しい逃亡ルート
9 自由へむかう村
10 どちらが有利か?
11 二十二人の老ユダヤ人
12 キューバへ
13 それからの四十年
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
69
ナチス占領下のフランス、ピレネー山脈を越えてスペインに入り、そこからポルトガルへ。この山越えルートの案内役を果たしたのが、この本の著者リーザ・フィトコである。ナチに追われ危険にさらされている人びとを何百人も救出するために越境を組織化する。ギュール収容所からの脱出で、「隣の区画にいるハンナ・アーレントを忘れないで。もちろん知ってるわね。ブリューヒャーの奥さんよ。あのひとも一緒に出たがっているわ」と手助けをし、ピレネー山脈越えでは、ヴァルター・ベンヤミンを送り出す。これは貴重な記録だ。2015/04/06
ロピケ
3
第二次大戦中の南仏を逃げ回り、ネズミ捕りの口が閉まる前にフランスからの脱出に奔走する錚錚たる知識人達。書名からベンヤミンの晩年の伝記かと思ったけれど、あくまでも主人公は著者。諦めて動けなくなる人、危険を素早く察知できる人、大丈夫と高を括る人。自分だったら?リーザさんの行動力、判断力には舌を巻く。それにしても、ベンヤミンの原稿はどこへ消えたのか?ヘミングウェイの、喪失したスーツケースの原稿ことも不図思い浮かんだけれど、ベンヤミンの話を知った今では、ベンヤミンの黒い鞄の中身のほうが私にはその行方が気にかかる。2013/01/09