出版社内容情報
「礼」によって築かれた「天朝体制」とそれに基づく天下観の歴史をたどり、中華帝国の行動原理を捉える。
内容説明
古来より中国の歴代王朝は有徳の天子の朝廷「天朝」を演じることで、中華と夷狄とを序列・秩序づけ、自らの領土たる「天下」を統治してきた。このような中華帝国の行動原理は、時代によってその内実を大きく変化させながらも、歴史を超えて現代にまで息づいている。中国史を通覧することでその全貌を描きだす雄大な試み。
目次
溥天の下、王土に非ざる莫し―春秋・戦国時代
天朝体制の仕組み―秦・漢
北の天下、南の天下―漢・魏晋南北朝1
天下と天下秩序―漢・魏晋南北朝2
中国の大天下と倭国の小天下―南朝・隋・唐
東アジアの天下システム―唐
天朝の行方―五代十国・宋・遼・金
天下一家の完成―元
天下一家から華夷一家へ―明
華夷変態と中外一家―清
中華民族の大家庭―近・現代
著者等紹介
檀上寛[ダンジョウヒロシ]
1950年生まれ。京都女子大学名誉教授。京都大学大学院博士課程修了。文学博士。専攻、中国近世史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
56
これは面白い。いわゆる中華概念、華夷秩序が統治正統化のツールとして、時々の統治者(言うまでもなくすべてが「華」出身ではない)により様々に解釈されながら精緻化していく。そしてこの視点から中国4千年の歴史を俯瞰すると、あら不思議!今までちょっとバラバラに切り分けられていた中国史が見事に繋がって見える。しかも現在まで(今も生きる「天下一家」)。こうなると、こうした歴史と「科挙」との関連をもうすこし調べて、諸子百家の中で決して主流とは言えない孔子の儒家思想が、統治原理に組み込まれていくプロセスが知りたくなった。2020/08/13
HANA
55
春秋戦国から現代まで、中国の「天下」意識の変遷を説いた一冊。中国史には暗く三国や唐、清末を朧に覚えているくらいなため、通史として読んでも面白い。本書で語られる「天下」は主に華と夷の鬩ぎ合いと、中国を大天下としてその周辺国の小天下の二つが主な主題とされている。日本や朝鮮、越南の天下意識も面白かったけど、やはり前者の遼や元、清といった夷が王朝を開いた際の民族イデオロギーが何とも面白い。中華の華が元々は夏王朝の夏から出てるのも初耳だったし。こういった切り口からの歴史の解説は、非常に新鮮で面白く読む事ができた。2017/09/11
サアベドラ
34
中国歴代王朝の「天下・天朝」観の変遷を辿ることにより、古代から現代にいたるまでの中華国家の行動原理を描き出す新書。2016年刊。著者は『明の太祖 朱元璋』を書いた人。漢代に儒教的宇宙観と皇帝家の正当性を強引に接続する形で成立した中国の天下・天朝観は、「野蛮な」異民族から攻撃を受けたり異民族自身が支配階級となったりするたびに、その都度微妙な読み替えが行われながらも脈々と東アジアで生き永らえてきた。オスマン朝など、モンゴル以降の東西アジアの他の多民族王朝国家の行く末と見比べるとなかなか興味深いものがある。2020/12/22
姉勤
34
チャイナの通史を徹して、天下,天朝という観念と、東ユーラシアに及ぼした影響を説く。天(≒神)より選ばれた人間が文明の中心たる「中つ国」を支配する保証。儒によって体系化されたこのシステムは、歴代王朝の統治の根拠となり、彼らによって辺境,蛮族と見做された、周辺国の政治体制にコピペされ、各国の政体と、非漢族がチャイナを征服した後の正当性の根拠となった。帝国主義と民主主義に晒され、統治の前提を失いかけるも、換骨奪胎され、現代の共産党独裁、ひいては周辺諸国侵略の正当化を、著者は言ってないが読み取れる。2016/09/22
kk
22
天の委任を受けた皇帝が、自らの徳と感化力によって人々を帰服させるとする天下・天朝の考え方。本書は、中華思想の規範的な背景であるこの考え方を掘り下げて吟味し、時代の推移に応じてどう発展してきたか、周辺諸族との関係でどう変容してきたか、征服王朝期にどのような再定義がなされたかなどを概観し、今日の中国の在り方への影響についても言及します。全体として感心すべき良書と覚えましたが、特に、宋・元革命の特異性への着目や、明朝の海禁策が華夷秩序に基づく国際システムの再構築に繋がったとの指摘には、大いに興味を唆られました。2020/09/26