出版社内容情報
中国の王朝が隋から唐へと移り、朝鮮半島から戦火が迫る。古代日本の律令国家は、そうした極度の軍事的緊張のなかから生まれた。国土防衛と権力集中への模索から、海を介した人々の知的交流、制度にとどまらない文明の継受によって、独自の国制を築く過程を描き出す。東アジアを舞台とした、「日本」誕生のドキュメント。
内容説明
中国大陸では隋から唐へと王朝が替わり、朝鮮半島からは戦火が迫る―。極度の軍事的緊張のさなか、国土防衛と権力集中への模索から、古代日本の律令国家は生み出された。海を介した命がけの知的交流により「文明」を継受し、独自の国制を築く過程を描く。東アジア世界を舞台とした「日本」成立の、比類なきドキュメント。
目次
第1章 遣隋使と天皇号
第2章 東アジアの緊張のなかでの権力集中
第3章 律令制の形成と「日本」
第4章 固有法としての律令法
第5章 官僚制と天皇
第6章 帰化人と知識・技術
第7章 吉備真備と「礼」
第8章 鑑真来日と唐風化の時代
著者等紹介
大津透[オオツトオル]
1960年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科(国史学専攻)博士課程中退。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専攻は日本古代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
131
ようやく国家として歩み出したばかりの飛鳥から奈良時代の日本にとり、隋唐など中国王朝の存在感は見上げるばかりであったろう。自分こそ世界の中心と誇る大国相手の外交がどれほどの苦労か想像に余りあるが、そうした中で必死に法や技術を学びとっていた姿が浮かぶ。その結果が律令や官僚制の制定であり、平城京や古代山城の建設だった。しかも直輸入せず、日本の現状に合わせて改めるなど「和魂唐律」までやれるようになる。大国の影響下で独自の国造りに苦心する政治のあり方は、今日の日本にも教えられるものがある。薄い本だが内容は濃く重い。2022/04/13
syota
37
神話を核とする氏族連合体だった古代日本は、白村江での惨敗を機に急速に中央集権国家へと舵を切る。社会の仕組みも成熟度もまったく違う隋唐の律令制度をどのように取り入れ、新たな国づくりを進めていったのか。隋唐や朝鮮半島諸国との関係も踏まえ、隋唐文明の受容と中央集権国家確立の過程を丹念に追った良書だ。センセーショナルな仮説で耳目を集めるというたぐいの本ではなく、あたかも大学で専門科目の講義を受けているような緻密さと安定感を感じる。岩波新書の良さを再認識した一冊。2022/05/06
kk
30
かつては未開の後進勢力として相手にもされなかった我が国は、7世紀後半の東アジア国際環境の緊張の下、律令制を継受することによって急速な統治体制の整備と「文明化」の道を志向します。当初はカタチだけのシステム受容に止まり、固有の土俗的な色彩が強かったものの、帰化人の働きや吉備真備等洋行帰りの新知識達の活躍、さらには鑑真渡来に代表される最先端仏教思想の将来などにより、徐々に日本という国の古典的な国制が形作られていきます。全体として、論旨明快で堅気な一冊。歯応えのある素晴らしい書物だと思いました。2021/01/11
崩紫サロメ
30
新書でありながら、先行研究が本文中・巻末でしっかりと紹介されている良書。贅沢を言うなら注を付けて欲しかった。律令国家の形成期において、参照された中国文化は最新の唐のものではなく、帰化人を通して出会った南朝のものであった。日本では儒教の根幹である「礼」は受容せず、律令を「礼」から切り離して国家統治の技術として輸入した。しかし、聖武朝になると「礼」の受容が始まり、桓武朝には春秋公羊伝の論理を用いて皇統を正当化するなど、本格的な中国化が進んだ。……公羊伝の影響というのが結構意外。もう少し勉強したい。2020/11/12
to boy
28
専門的な内容で難しかった。663年白村江の戦で唐・新羅連合に敗れ、国を守るために中央集権国家の体制を強化していった辺りの記述は現代と同様な複雑な国際関係と似ていて興味深かった。中国文化(主に南朝)をもった多くの帰化人を登用したりして古くから人的交流が盛んだったと改めて知った。2021/01/11