出版社内容情報
「軍」vs「民」対立構図の死角を衝く
アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)によってようやくめどが立ちはじめていたミャンマーの民主化は、
2021年、軍部のクーデターでリセットされてしまった。
では、ふたたびNLDが政権の座に戻ればそれでよいのか?
本書は、それでは再度のクーデターを防げないとする立場から、軍部・民主派が共有する「ビルマ民族中心主義」の克服に向けて、経済的再分配を通じた新しいナショナリズムの形成に照準する。
当地の政治家と官僚の懐で開発政策を担った経験を踏まえてイデオロギーに頼らない国民国家建設を提言する「希望」の書。
序 やり過ごされた問題
第一章 「豊かな社会」の貧困と格差 ――なぜ「再分配」が必要か
第二章 「民主化」はなぜクーデターを招いたか ――ポピュリズムへの道
第三章 前近代的な権力関係 ――親分・子分関係をいかに解体するか
第四章 「政治」と「行政」のあいだ ――国づくりの実践に関与する
第五章 法律をもとに社会をつくる ――基金・運用・財源と「改革」のために
終章 「新しいナショナリズム」から国民統合へ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
崩紫サロメ
21
クーデターによって「やり過ごされてきた」ミャンマーの「国民統合」についての問題や可能性を提言する。アウンサン・スーチーによって成し遂げられたかのように見えた「民主化」だが、結局のところ彼女が「人民の唯一の代表」として「ポピュリスト」化していったことを指摘。これはハンガリーのオルバン首相にも見られる「反多元性」である。著者は国民統合には経済成長と再分配、多様な人々の政治参加が必要であるとするが、本書で描かれているミャンマーの現状はそれを妨げるものに満ちており、困難を感じさせられる。2022/11/09
クァベギ
3
ミャンマーの政治の論理が分かりやすく解説されていて、NLD政権時代のアウンサンスーチーの「変節」(に見えたもの)の背景にある要素が何なのかが理解できた。また、著者は現地で仕事をしていた人であるだけに、今後(おそらく遠い将来)に向けての提案は具体的で説得力がある。現地での経験の回想部分も興味深く、登場する人たちの姿が立体的に見えてくる。この人たちは今どうしているのだろうと、読みながら思わずにはいられなかった。2022/10/12
じろう
1
20年前にミャンマービジネスに関わったことがあり、ミャンマーに関しては肌感覚でも理解しているつもりだったが、一部、蒙を啓かれた。少数民族の問題は大きくスー・チー政権でも解決されたわけではないこと、ロヒンギャ問題がスー・チー氏への西側からの批判を招き、より不安定化した。ヤンゴンにインド人はたくさんいるが、彼らも決してロヒンギャの同情的ではないと他の本で読んだような気。仏教が圧倒的な状況でイスラムは受け入れにくく、私自身も仏教徒側の意見に傾きがちだった。電力問題については一般人に不要煩雑な情報で流し読み。2024/01/03
Ahmad Todoroki
0
研究者によるミャンマー本だが、ミャンマー政治と行政の現場の実態を自らが関与することになった電力供給プロジェクトの経験を元に論じている第4章が抜群に面白い。ミャンマーが独立以来、国民国家を創生することに失敗してきた結果がクーデター後の現状に繋がっているとの指摘は他の書籍でも見られるもので目新しさはないにせよ、著者の実践を元にした本書の各種提言は今なお有効であろう。他の東南アジア各国との比較も興味深かった。2024/04/01
MADAKI
0
2017年にミャンマーで仕事したときは、東南アジアなのになんて平和な国なんだろうと思った。しかし数年後に状況が激変。もはや手軽にいくこともできなくなった国のことを知ろうと読んでみた。狭隘なナショナリズムの土壌に、NLDの台頭がもたらしたポピュリズムの種が花開いたことが、クーデターと混乱を招いたと知り、さらに興味が湧いた。筆者が村落電化の経験から説く、理想に漸進的に近づけるアプローチのなまなましい記述も面白い。2024/01/05