内容説明
栄光のオスマン帝国官僚としての矜持と西洋的「進歩」とのあいだで、イスラム国家と国民国家を両立させようとした熱きオスマン・エリートたちの物語。縮小し続ける領土において、ナショナリズムはいかに機能したのか。
目次
序章 三つの「?」
1章 進歩の先端―西洋社会の観察
2章 改革の進展
3章 批判的言論の登場
4章 オスマンの愛国主義とイスラム
5章 立憲制から青年トルコ人へ
6章 青年トルコ人とナショナリズム
終章 帝国の瓦解とトルコ共和国の成立
著者等紹介
新井政美[アライマサミ]
1953年生まれ。東京大学文学部卒業。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。トルコ近代史専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
48
第2次ウィーン包囲失敗以降、第1次世界大戦で帝国が崩壊するまでの政治及び思想的状況を、当時の言説を豊富に引用して論じる。オスマンという多民族を包摂する帝国が、ヨーロッパの「民族国家」に圧迫される中、「近代化」という形でそのナショナリズムをオスマンに移植しようとする動向(もちろんその矛盾を含め)が、代表的な思想家、言論人、政治家の言葉を通じて示される。イスラームを上位に置いた時代から、非イスラームに対する「平等」な扱いが、かえって特権(兵役免除など)となっていく皮肉。特に末期の思想的あがきは切なくすらある。2019/11/28
かんがく
13
イスラム教という伝統の中で、いかに西洋近代文明を受け入れ、いかにナショナリズムを形成していくかという模索。文章がやや読みづらかった。2023/07/03
MUNEKAZ
3
知識人や官僚の思想・動きを中心に、オスマン帝国末期から崩壊までを描いた一冊。多民族・多宗教の帝国を存続していくために、「オスマン」「イスラム」「トルコ」のいずれで統合していくかの苦悩がよく伝わってくる。もう少し時間がれば、当時のオスマン人たちはその答えが出せたかもしれないが、列強の侵略と度重なるオスマン帝国の敗北が、それを与えなかったという感じか。結局生まれたのが「均質なトルコ人」という前提からなるトルコ共和国であり、オスマン帝国から続く多民族・多宗教の問題は内包されたままになっている。2016/09/06
しんい
2
「イスラムと近代化」監訳者の新井先生による掲題についての考察。20世紀の話が中心だった同書と比べて、主に19世紀のオスマン帝国の動きに着目。すでに最盛期の力を失い、西欧とロシアの思惑でバルカン半島の領土を獲られて獲り返し、また獲られる。そしてオスマン帝国のコスモポリタン性。別にユートピアじゃなく、結果的にイスラムの盟主となった帝国が、ある意味近世のローマ帝国風に国家運営する中で生存の知恵としてそうなったものか。ローマ最盛期に宗教はなかった。宗教から解き放たれていたら、オスマンは現代ローマ帝国となりえたか?2020/08/23
りー
2
自分がこの時代の知識をろくに持っていないので、かなり読むのに時間がかかりました。基礎知識がないと辛い本でした(帝国書院の世界史図説にお世話になりました)。日本と違い、フランス・イギリスの近代化を間近で感じる距離感だったからこそ、生まれた苦悩だったのだろうと思いました。本格的な国家の崩壊は、巻き込まれた形だったクリミア戦争の借金に端を発するんですね。アイデンティティーについてあまり悩むことの無い日本人としては、オスマン・イスラム・トルコと旗印を変えながら国の形を模索する過程が興味深かったです。2018/06/03