内容説明
化学・生物戦の卑劣、残虐なイメージは、コナン・ドイル、レマルク、ロバート・グレイヴズの作品や、国家間のプロパガンダ合戦によって増幅され、人々の心に根付いた。結果、積年の恐怖は恐怖を呼び、2003年のイラク侵攻を正当化する理由ともなったのである。硫黄の煙が使われたペロポネソス戦争から、二度の世界大戦での大規模なガス戦、イラクの化学戦プログラム、地下鉄サリン事件、炭疽菌郵送事件まで、毒物攻撃をめぐり、その使用と研究開発の過程,社会的影響を詳述。客観的事実を浮き彫りにし、兵器の抑止およびテロ対策の未来を展望する。
目次
序章 化学・生物兵器とは
第1章 第一次世界大戦のガス戦が残したもの
第2章 抑止と軍縮―化学・生物戦への対応 一九一九年から一九九三年
第3章 第三世界での紛争における化学戦
第4章 化学・生物兵器の拡散
第5章 イラクの化学・生物戦プログラム
第6章 化学・生物テロ
終章 進化する化学・生物戦
解説 ポスト冷戦期の生物・化学兵器の諸相
著者等紹介
スピアーズ,エドワード・M.[スピアーズ,エドワードM.][Spiers,Edward M.]
エディンバラ大学Ph.D。リーズ大学芸術学部で戦略研究の教授、研究副部長。イギリス王立歴史学会フェロー
上原ゆうこ[ウエハラユウコ]
神戸大学農学部卒業。農業関係の研究職をへて、翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アドルフヒトラー
2
条約の無意味さがわかる本です 化学兵器禁止条約を締結しても守ってる国なんて皆無と言っても良いんじゃないか?ってくらい締結国は口だけで守る気なし 核兵器を技術面や資金的で作れない小さな組織では生物兵器が凄く有用である事がわかります アメリカでは生物兵器への対策に7年で500億ドル近くもかけているんですがそのきっかけを作ったのが炭疽菌郵送事件のたった一件のテロ これたけの費用をかけて対策を取らざるを得なくしたテロリストは有能ですね 2016/10/17
ななみ
2
「貧者の核」化学・生物兵器の歴史と現状を解説した本。得体のしれない恐怖の対象であるこれらの兵器が、戦力としてはそれほど役立たない反面、条件と使い方によっては非常に強力な武器となるのは興味深い。生物兵器が数千年の歴史を持っていることは人間の業を感じさせるし、近代戦争で最初に化学兵器を使用した行為に対して「全世界が激怒し、そして真似をするだろう」と語られたのは本質を突いていそう。実際の被害より、不安やプロパガンダによる影響のほうが遥かに大きいというのは暗示的。複層的な見方の重要性を再認識させられます。2012/09/05
水無月十六(ニール・フィレル)
1
生物化学兵器の開発史を中心に、生物化学戦の実態や影響をまとめた本。今世間を騒がせている新型ウィルスも、一時期生物化学兵器説のようなものが騒がれていたが、本書を踏まえて考えるのも面白そうだ。本書は戦争やテロにおける生物兵器化学兵器の使用実態などをもとにその効力や影響について書かれており、オウム真理教にも触れられていたのが興味深かった。原著の刊行から10年ほど経っているので、新たな積み重ねがある可能性も踏まえて色々調べてみたい。2022/01/02