内容説明
フランス・レアリスムの画家ギュスターヴ・クールベ(1819‐77年)ほど、己の時代の出来事に直接かかわった芸術家はまずいない。そしておそらく、彼の生きた世紀を理解するために、これほど重要な画家もほかにはいない。クールベは19世紀中頃の社会変動の最中にあって、勃興しつつある近代世界とそのなかで自ら主張する新しい芸術上の自由に関して、この上なく力強い芸術表現を生みだした。田舎町オルナン出身のこの野心に満ちあふれた画家は、ひたすら自分自身の経験に拘泥し、着古した伝統を軽蔑したのだが、誠実さと真正さからなる生の声をもってパリの権威に挑戦したのである。本書は研究者に参照の便をはかる包括的な仕事であるよりは、むしろ一般読者に最新情報を与える信頼性の高い刺激的な概観であることを意図している。
目次
序 レアリストと夢想家
1 絶望した男―ボヘミアンのパリにおけるアイデンティティの危機
2 下層社会の芸術―「石割り」と政治変革
3 現実的な死―「オルナンの埋葬」によって定義されるレアリスム
4 民衆を映すもの―レアリスムのシリーズと独立独歩の歩み
5 自伝と社会的ヴィジョン―アトリエからの世界の予言
6 言葉と態度としてのレアリスム―宣言とその文脈
7 男らしさと女たち―モデルと愛人、娼婦と妻
8 自然と故郷に対する真実―野外とその消費者たち
9 感謝されざるクールベ―ヴァンドーム広場の円柱、投獄と亡命
10 クールベという先例―クールベ主義の遺産とアヴァンギャルド