出版社内容情報
今日「読書」と呼ばれる行為はいつ誕生したのか。中世の神学者ユーグの『学習論』を軸に,その前後における「読書」の意味と役割の変貌を鮮やかな手際で描き出す。
内容説明
かつて読書は巡礼であった。ぶどうの果実の収穫だった。今日〈読書〉と呼ばれる行為はいつ誕生したのか中世の神学者ユーグの『学習論』をめぐって読書の意味と役割の変貌を鮮やかに描き書物の未来に深いまなざしを向ける。
目次
1章 知へ向かう読書
2章 秩序、記憶そして歴史
3章 修道士の読書
4章 ラテン語で〈読書すること〉
5章 学者の読書
6章 記録された話から思考の記録へ
7章 書物からテクストへ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
28
尖筆で羊皮紙に書くのは畑を耕すのにも似ていて、読む者はぶつぶつとつぶやきながら、口の中で味わうようにして読み、あらゆるものが意味を孕んでいるテクストの茂みから果実をもぐようにして受肉させるもの、五感によって全身的に享受されるもの、12世紀西欧の修道院における読書は、その身体性ゆえに知識人だけでなく万人に開かれているはずだった。やがて黙読が発明され、スコラ学の誕生とともに少数のエリートに読書が独占されるのと、中世の大学の成立が軌を一にしていたことは興味深い。2020/04/07
爐
2
サン=ヴィクトル修道院のユーグ『学習論』を参照点に、読書とその技術の変遷をめぐる論考。書物の歴史は過去のその姿を忘却しながら新しい頁をめくっていく。ユーグが参照されるのは、12世紀がまさに頁が移り変わる時期であり、その過渡期性が表れているからだ。現代も頁がめくられる時代だと言えるが、いわゆる「紙の本」という語が、専ら機械と消費の時代が生んだ本のことを指していることは、ほぼ無視されている。いまやネットで予約した修道院で余暇を過ごしながら電子書籍を読む時代、本書もいやましに過ぎ去った頁を漂う箱舟めいて見える。2013/05/21