内容説明
花と月に思いを託して歌い後世に多くの伝説を残した、自由な境地に遊ぶ歌僧。
目次
津の国の難波の春は
咲きそむる花を一枝
木のもとに住みける跡を
願はくは花の下にて
吉野山花をのどかに
花見にと群れつつ人の
あくがるる心はさても
覚えぬを誰が魂の
あはれいかに草葉の露の
心なき身にもあはれは〔ほか〕
著者等紹介
橋本美香[ハシモトミカ]
岡山県生。ノートルダム清心女子大学大学院博士課程修了、博士(文学)。現在、川崎医科大学准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
332
数多く残された西行歌から編者の橋本美香氏が選んだ巻頭歌がこれー「津の国の難波の春は夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり」。私も1首を選ぶならこれだろう。新古今の三夕歌「こころなき…」は、主体感情が顕わに過ぎるし、辞世歌「願はくは花の下にて…」はやはり感情表出が過多であるだろう。百人一首は「嘆けとて月やは物を…」を採るのだが、定家の西行像は一昔前、俊成と同時代人の扱いか。もっとも、新古今には94首が採用され、これは並みいる他の歌人たちを凌駕して最多であるが。新古今歌では「きりぎりす夜寒に秋のなるままに…」も秀歌。2022/07/02
かふ
26
西行は出家しても桜や月の歌を詠い続けた。文武両道の厳格なイメージがあった西行だが(出家するのに娘を蹴飛ばしたとか)、出家しても歌道に彷徨い続ける人間の弱さを感じさせる西行に愛着を覚えた。遊女に慈悲の心を問いて逆にやり込められるとか子供と戯れた歌を残していたり、また歌友寂然とのやり取りの歌も面白い(寂しさ自慢)。一方歌僧として神通力に通じていたとか伝承の神話で語られる部分もある(こっちのイメージが強いのかも)。芭蕉の西行の思いを見ると俳諧に通じる心を持っていた歌人なのかもしれない。2023/12/31
だいだい(橙)
17
西行さんの歌ってやっぱりいいな。そして、当時は出家者は「自由」な存在だったんだ、という点に目からうろこ。ですよね、妻子を捨てて逃げたのと同じなのに「偉い!」って賞賛されるんだもの。現代風に言えば「勝手な男」なのかもしれないが、この時代は神と仏が分離されておらず、西行は神と仏を同時に信仰し、伊勢神宮の近くの二見にも庵を結んでいるし、伊勢神宮に歌も奉納している。そしてあの崇徳院に、追放された後は直接会いに行っている。東北には、若い時と晩年の2回訪れている。いろんな意味で面白い人だと思った。そして歌がいい。2022/09/04
はるわか
14
願はくは花の下にて春死なんその如月の望月のころ/あくがるる心はさても山桜散りなん後や身に帰るべき/あはれいか草葉の露のこぼるらん秋風立ちぬ宮城野の原/心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮/いとほしやさらに心の幼なびて魂ぎれらるる恋もするかな/風になびく富士の煙の空に消えて行方も知らぬわが思ひかな2022/04/13
ハルト
11
読了:◎ 月花の歌僧、西行。月と花を詠い、旅をした。「我が心」を歌に託し、詠みあげた。その伝説のような生涯を、解説と38首の短歌で紹介している。西行のどこに憧れるかといえば、その自由奔放さ。心の自由さが、歌の自由さに繋がっているように思う。2021/05/13