内容説明
神経哲学のトップランナーが豊富な症例研究をもとに提示する、心と脳の謎への新たなアプローチ。うつ・統合失調症・植物状態の患者の脳が明かす、心と意識の秘密とは―
目次
序
第1章 意識の喪失
第2章 意識
第3章 自己
第4章 抑うつと心脳問題
第5章 世界を感じる
第6章 統合失調症における「世界‐脳」関係の崩壊
第7章 アイデンティティと時間
著者等紹介
ノルトフ,ゲオルク[ノルトフ,ゲオルク] [Northoff,Georg]
神経科学者、哲学者、精神科医。カナダ・オタワ大学精神保健研究所教授で、心・脳・精神倫理研究ユニット長も務める
高橋洋[タカハシヒロシ]
翻訳家。同志社大学文学部文化学科卒(哲学及び倫理学専攻)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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踊る猫
22
架空の症例を設けそこから脳の中でなにが起こっているのか平たく説明しており、繊細な議論が頼もしく思われる。脳とは知られるように人間の持つ器官/機関のひとつなのだが、その中に「こころ」「意識」があるのかどうかという問題に肉迫する。そこから導き出されるのは、「こころ」「意識」とは脳と身体、そして世界の三者の相互関係から生まれるものであるということだ。だから世界と脳の繋がりが切れてしまうと(あるいは情報入力のバランスが崩れると)私たちは狂気に陥ってしまう。翻訳者は謙遜しているがこの訳は読みやすく、とても興味を惹く2021/11/21
evifrei
20
うつ病や統合失調症患者の脳画像技術や実験による実証的データをもとに、いかに意識が生まれるかを検討する。著者は、神経哲学という学問体系に基づき人間の意識にアプローチするが、『安静時脳活動』を生理的な基盤とする時間―空間構造によって『世界―脳』を構築すると説く。要は意識は脳の内因性の活動である安静時脳活動に基づいて生じるものであり、脳内時間と世界内時間の構造により、『世界―脳』関係を構築する。統合失調症患者は『世界―脳』の関係が崩壊をきたし社会から断絶された状態にあり、人格の連続性は脳の一定の周波帯に基づく。2020/03/02
izw
16
神経科学の知見と経験から人間の意識について考察している。直前に読んだ「ぼくらが原子の集まりなら、、」の哲学の議論とは違い、実験や症例を元に考察が進むので、非常にわかり易く感じた。自己とは何か、アイデンティティはなぜ生じるのか、時間と存在との関係、など哲学的議論も明快に示されていて、まだ解明されていないことが多いということが良く分かる。2017/11/14
GASHOW
12
統合失調症の方は、目の前の世界が流れていないという。我々の日常が映画の世界のような動画なのに対して、ランダム画面に入れ替わるスクリーンセーバーのような画像のフラッシュの中で暮らしているようだ。だから、次の瞬間に安心できない。同じ世界には生きていない。時間の概念が鍵であるという。時間そのものは未だわかっていないことが多く、人類の幻想ではという学説もあるという。自分である認識がコンバートできたら、スマホの機種変更のような生き方が存在するのかもしれない。2017/03/28
velikiy99
10
意識が何かを解明するに当たり,植物状態・うつ病・統合失調症と,意識に問題が生じた状態を研究していく方法は,Anathanswamyの「私はすでに死んでいる」にも通じるが,こちらは症例を絞り,その分深く扱う.話題の中心ではなかったが,小児期のストレスが脳にもたらす影響が興味深かった.意識や自己,主観を巡る哲学的な内容も含むことから難解で,かなり苦労したが,あとがきにあった本人の言が良かった.図書館で借りた都合,今回は理解が及ばなかった部分もあったが,また別の本も読んで理解を進めた後で,改めて読み直したい.2018/12/21