目次
謝辞
序文
はじめに
導入
なぜ本指針は必要とされるのか?
本書は誰に向けているのか?
指針の概要
系統立てた多分野協働アプローチ
内容の概要
第1章 子ども虐待の性質と帰結
1.1 子ども虐待とは何か?
暴力の類型学
子ども虐待の概念定義
1.2 問題の大きさ
1.3 子ども虐待の帰結
1.4 子ども虐待のコスト
1.5 虐待の受けやすさとリスク要因
個人要因
関係性要因
地域要因
社会要因
保護要因
第2章 疫学と事例に基づいた情報
2.1 子ども虐待の操作的定義
2.2 母集団ベースの疫学調査
Parent-Child Conflict Tactics Scale
The Adverse Childhood Experiences Study
The Lifetime Victimization Screening Questionnaire
ISPCAN Child Abuse Screening Tools (ICAST)
地域の実情に合わせる
サンプリングにおける戦略
倫理的配慮
2.3 事例の情報
通報事例のマネジメント
情報提供を行った機関へのフィードバック
政策立案者の説得に役立つ情報
第3章 子ども虐待の予防・防止
3.1 子ども虐待予防・防止の課題と関係する機関
3.2 子ども虐待予防に向けた戦略
社会的及び地域的戦略
関係性戦略
個人戦略
3.3 子ども虐待予防・防止プログラムのアウトカム
虐待予防・防止のための具体的目標を決定すること
論理モデルを作る
アウトカムと、アウトカムデータを与える情報源を選択する
介入の実施と評価方法を策定する
評価を分析し、結果を社会に広める
第4章 虐待を受けた子どもとその家族に対するサービス
4.1 エビデンス基盤を向上させるには
4.2 子ども虐待に対応するための鍵となる内容:子ども虐待を見つける
子どもの保護
第5章 結論と提言
付録1 子ども時代の逆境体験質問票
家族健康歴:女性版
家族健康歴:男性版
健康評価質問票:女性版
健康評価質問票:男性版
付録2 アウトカム評価のための、妥当性のある評価尺度の例
乳幼児と子どものアウトカム
親と家族のアウトカム
日本語版あとがき
前書きなど
序文
“常識”は、しばしば、暴力の問題を、治安や司法制度の問題と結びつける。しかし、ごく最近になってからにすぎないが、公衆衛生分野における斬新な発展と、専門家の働きにより、暴力の終結に向けた戦いではより広い領域の複数の専門家によるアプローチがとられるべきであるという認識が高まっている。なぜならば複数の専門家によるアプローチをとることは、暴力に対して効果的に対処する、統合された戦略を確約するばかりでなく、持続的かつ、エビデンスに基づいた予防・防止戦略をとることと等しいからである。
このような広い専門技能は、家庭や家族内での子どもへの暴力に対処する場合により重要になってくる。被害者を支援し、安全を保証することが必要であることはもちろんであるが、それに先駆けて求められることは暴力の予防・防止方法である。子どもに向けられた暴力に関する国連事務総長報告は、多くの研究や政府により報告された調査や事例の積み重ねを基礎として作成されたものであるが、それによれば、暴力の予防・防止戦略は多くの専門家の技能、そして適切な手法で集められた信頼できるデータ収集と、それらのデータが指し示すことを確固たる基礎とした技能、両者を結んだものであることが極めて重要であるとしている。
家庭と公共という領域の間に横たわる、伝統的な「プライバシーの壁」という概念は、家族内の暴力を予防し、暴力を受けた人に対して福祉支援サービスを施す、という政策的・法的手段の向上を妨げてきた。これらに関する正確かつ包括的なデータが存在しないことは、この重大な問題に向けた戦略を発展させ、それを評価することを阻止するベールが存在することの明らかな一つの現れである。国際的な人権および子どもの権利基準が設定されているにもかかわらず、いくつかの国における法的枠組みは、ことに家庭内での暴力を明確に禁止する取り組みに着手するには、依然十分とは言えない。
WHO(世界保健機関)は、長年、公衆衛生分野を巻き込んで、暴力予防政策が極めて重要であること、そして、データ収集の質を高めることが直近の重要課題であることに目を向けることを呼びかけてきた。The International Society for Prevention of Child Abuse and Neglect(ISPCAN)は、多領域の専門家により構成された、唯一の世界的な組織であるが、過去20年間、子どもに対する暴力をなくすためのアプローチを作り直し、数多くの戦略を発展させてきた。最近では、家族内、もしくは他の場所における、子どもへの暴力について収集される情報の質を向上させ、さらに情報量を増やすための方法を発展させるため、ISPCANは幅広い分野の組織、団体と協働している。
本指針は、WHO(世界保健機関)とISPCAN両組織に蓄積された技能の集積と、子どもへの暴力の予防とその対処に取り組む政府、市民社会、そして国際的組織にとって、必要不可欠なツールと情報を提供する。そして今、それを最大限活用することは、それに関わる人々の手にゆだねられている。
パウロ・セルジオ・ピニェイロ(Paulo SZrgio Pinheiro)
Independent Expert
UN Secretary-GeneralOs Study on Violence against Children
(国連事務総長のもとで行われた暴力についての研究)