目次
はじめに
第Ⅰ部 植民地時代以前
1 神話にみる太平洋と日本の接点――基層文化を探る
2 日本への人類移住と南方起源説――その魅力と可能性
3 人類史からみた縄文人と南太平洋の人々――海を越えた私たちの祖先とその関係性
[コラム1]柳田国男『海上の道』と島崎藤村
4 太平洋の人々と漂流民――太平洋の歴史に果たした役割
5 南洋の地名・地域名の由来――日本人は島々をどう呼んできたか?
6 アホウドリと日本人の太平洋進出――「バード・ラッシュ」と無人島獲得競争
7 森小弁と『酋長の娘』――南洋イメージをめぐる虚像と実像
[コラム2]冒険ダン吉
8 ハワイ王家と皇室の縁組み計画――ハワイの未来を託された若きプリンセス
9 フィジーへの実験的移民の帰結――宮本常一の著作に刻まれた父親の体験
10 南洋考――なぜ内が裏で、外が表なのか
11 南進論――武力南進の経緯
第Ⅱ部 植民地時代を中心に
12 日本の南洋群島統治――移住と開発、同化政策、軍事拠点化
13 〈砂糖の島〉はどのようにしてつくられたのか――松江春次と南洋興発株式会社による製糖業の実態
14 マーシャル諸島における日本統治――文化の収奪
15 太平洋における海外神社の今昔――サイパンとグアムの比較から
[コラム3]南洋踊りの系譜
16 パラオ文化と土方久功――久功が遺したもの
17 パラオ赴任と中島敦の文学――ミクロネシア体験による〈変貌〉
[コラム4]日本人作家の太平洋探訪
18 パプアニューギニアの日本人移民――明治時代から太平洋戦争まで
19 ニューカレドニアの日本人移民――「天国にいちばん近い島」との浅からぬ縁
20 トンガの日系企業――南の島で活躍した起業家ナカオとバンノ
21 ハワイ日系移民史からの問いかけ――米軍機「マダム・ペレ」の怒りの矛先とは
[コラム5]朝枝利男の見た太平洋
第Ⅲ部 太平洋戦争
22 真珠湾攻撃――アメリカの戦意に火をつけた「奇襲」
23 ニューギニア戦線――その様々な影響
24 水木しげると『ラバウル戦記』――戦争の地獄と南洋の楽園の間で
25 現地の人々にとってのソロモン諸島の戦い――ガダルカナル島の人々の経験
26 戦争体験と「新しい世界」――メラネシアの人々とアメリカ軍の交流
27 フィジーの砲台――戦跡が物語る太平洋戦争
28 玉砕前夜のギルバート諸島――日本兵とキリバス人との出会い
29 ツバルの滑走路建設――米軍が残した戦争の爪痕
30 サイパン島・ペリリュー島における地上戦――玉砕・虐殺・村の破壊
[コラム6]『ペリリュー 楽園のゲルニカ』
31 BANAZAI Cliff (バンザイクリフ)――沖縄の人々の証言からサイパンの「集団自決」を考える
32 テニアン島とエノラ・ゲイ――サトウキビ栽培地から原爆搭載地、そしてリゾートに
33 日系人収容の話――オーストラリアに送られた日本人・日系人抑留者たち
[コラム7]メラネシアにおける戦争の語り口
第Ⅳ部 戦争の傷跡を乗り越えて
34 慰霊巡拝――ミクロネシア・メラネシアの旧戦場を旅する
35 ミクロネシアにおける遺骨収集――遺骨収集をめぐる人々の様々な思い
36 メラネシアにおける遺骨収集――歴史的経緯と現在の状況
37 ミクロネシアにおける戦争遺跡観光――観光資源か、文化財の保存か、それとも
38 「日本兵」が潜伏した島――グアムと横井庄一
[コラム8]『マッドメン』
39 博物館展示と戦争①――ソロモン諸島ガダルカナル島の青空博物館
40 博物館展示と戦争②――パールハーバーの戦艦アリゾナ記念碑
41 ダニエル・イノウエ――ハワイそして日系人社会のヒーロー
42 「日系」パラオ人リーダーたちの戦後――パラオ人として新しい国をつくる
43 サイパン、パラオへの天皇訪問――忘れられた日本統治の記憶が再認識された「旅」
[コラム9]大首長ススム・アイザワ
第Ⅴ部 新たな関係性の構築
44 戦後外交の幕開け――太平洋・島サミット
45 太平洋における日本の公的援助の変遷と今後――「日本らしさ」を求めて
46 「沈む島」への援助――ツバルにおける気候変動対策
47 水産業からみえる太平洋と日本の関係史――カツオ・マグロ漁業にみる島嶼国の資源外交と日本の役割
48 太平洋における鉱物エネルギー資源開発――日本企業のかかわり
49 民間資本による農業ビジネスの可能性――トンガの事例から
[コラム10]日本のNGOの活動事例
50 生き続けるゴジラ――マーシャル諸島・反核運動・被ばく・放射性廃棄物
51 米軍基地の価値――グアム島の住民生活とアイデンティティ
52 文化遺産保護の国際協力――ナンマトル遺跡の世界遺産登録
53 伝統建築を起点とした防災と伝統技術の発展的継承――ヴァヌアツ・タンナ島での取り組み
54 トンガ王室と皇室――やんごとなき国家親善
55 トンガ人スポーツ選手の活躍――昭和の力士、令和のラグビー日本代表
56 小笠原に伝播した歌――時間と空間を超えたミクロネシアの混淆文化
57 日系サモア人アーティスト、ユキ・キハラ――太平洋のポストコロニアルアートのパイオニア
[コラム11]日系人の音楽活動
58 観光にみるハワイと日本とのかかわり――爆弾投下から花火献花へ
59 太平洋の航海カヌー文化復興運動と日本人――ペサウ号と大内青琥の冒険
60 太平洋芸術祭と「カヌーサミット」――ユネスコ無形文化遺産に向けての課題
引用・参考文献
太平洋諸島の歴史を知るための参考図書
太平洋諸島の歴史略年表
前書きなど
はじめに
本書は、太平洋という海洋世界のうえにある国や地域の歴史を扱う。ことに本書の副題にあるように、「日本とのかかわり」という視点から太平洋諸島の歴史を知る・学ぶことを目的としている。
日本との関係を焦点に据えるに至った経緯について触れたい。まず指摘できるのは、日本人の読者に太平洋をより身近に感じてもらうためである。ほかならぬ日本も太平洋に浮かぶ島国の一つであるだけでなく、太平洋の国や地域のなかには日本と歴史的に関係が深いところも多い。現在では観光地として比較的身近な存在となっている場所もあろう。実際、明石書店のエリア・スタディーズにおいて太平洋に関する書籍は「ミクロネシア」「南太平洋」「ハワイ」「グァム・サイパン・マリアナ諸島」「ニュージーランド」など多数刊行されているが、それらのなかでも太平洋と日本とのつながりに触れた章は好評であったという。そこで太平洋の島々と日本の関係の歴史について包括的に扱う手軽な読み物として、本書の企画が持ち上がった。
もう一つは、通常の太平洋の歴史からは漏れてしまうことがある日本との関係を強調するためである。学術書などで描かれるオーソドックスな太平洋の歴史では、先住民の太平洋への定着、大航海時代のヨーロッパによる「発見」、植民地化、そして独立へという編年をたどることが通例である。こうした形式では、先住民かヨーロッパ系の人々が中心となり、ミクロネシアなどの一部の例外を除き日本との関係が傍系的にならざるを得ない。そうした不備を補うことを念頭に置いている。
そこで本書では、あえて太平洋と日本との関係を踏まえた五つの時代区分から成る編年体の形式をとっている。それぞれが「植民地時代以前」「植民地時代を中心に」「太平洋戦争」「戦争の傷跡を乗り越えて」「新たな関係性の構築」という本書の五つの部に相当し、本書全体を通して太平洋の通時的かつ包括的な理解が進むような構成となっている。植民地時代というのは、日本によるミクロネシア統治の時期を念頭に置いてさしあたりの時代区分としている。
日本とのかかわりに軸足を置くとはいえ、本書の主題は太平洋の島々にある。したがって日本人が太平洋で行ってきたことを記述するだけではなく、そこで太平洋の人々が果たしてきた役割を可能な限り引き出し、個々の歴史的な特色を活かせるよう工夫を凝らした。章のテーマに応じて濃淡はあるものの、可能な限り太平洋の人々の視点を取り入れながら、太平洋と日本の歴史的な関係性を描き出すことに留意したつもりである。
ところで、本書全体の構成を見ると、植民地支配および太平洋戦争とかかわるテーマが多くを占めることにあらためて気づかされる。もちろん本書の構成は編者の発案によるものではあるが、やはり日本とのかかわりといえば帝国主義的拡大という側面がぬぐい難くあったことを示唆していよう。本書では、戦争のテーマを扱うにしても、太平洋の人々が戦争をどのように見ていたのかという彼らの視点を取り入れて描こうとしている。いわゆる戦記物を期待されている読者には肩透かしとなるかもしれないが、戦争の舞台となった地域の人々の視点にも配慮する近年の太平洋における戦争の研究の動向を紹介できるいい機会ではないかとも考えている。
(…後略…)