本研究の目的は,慢性的な抑うつ状態にある気分障害患者の看護における精神科熟練看護師が抱く困難感と対処のプロセスについて明らかにすることである。対象は,精神科臨床経験10年以上の熟練看護師7名であり,半構造化面接を実施した。面接内容を,修正版グラウンデッドセオリーアプローチ法を用いて分析した。
その結果,精神科熟練看護師が慢性的な抑うつ状態にある気分障害患者の看護実践で抱く困難感と対処に関して,「今ここでのコミュニケーションの難しさ」,「思いに沿うセルフケア支援の難しさ」,「今も先も見えないケアの難しさ」,「気持ちに寄り添いきれない辛さ」,「役に立てているのかわからない苦しみ」,「長く変化がないことへの焦り」,「過去の経験に支えられる」,「小さな変化に目を凝らす」,「寄り添うために意図的に距離をとる」,「変化が見えないなかで関わり続ける」,「信念を迷いながら持ち続ける」という11概念を生成した。この11概念は,さらに「看護介入における難しさ」,「精神科看護師としての揺るぎ」,「やれることを模索する」,「揺らぎつつ信念を持ち続ける」の4カテゴリーに集約し,後ろ2つのカテゴリーからコアカテゴリーは「困難感を抱え持ちながら信念のある看護を継続する」であると判断した。
慢性的な抑うつ状態にある気分障害患者の看護において精神科熟練看護師が抱く困難感と対処は,精神科熟練看護師の自己を支えるプロセスと考えられ,メンタルヘルス支援と看護における価値・信念への教育的支援により,困難感を抱える精神科熟練看護師の臨床知が育まれ,効果的な看護介入を継続実施しうることが示唆された。
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