老年社会科学
Online ISSN : 2435-1717
Print ISSN : 0388-2446
30 巻, 1 号
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原著論文
  • 小川 まどか, 権藤 恭之, 増井 幸恵, 岩佐 一, 河合 千恵子, 稲垣 宏樹, 長田 久雄, 鈴木 隆雄
    2008 年 30 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,高齢者を心理的・社会的・身体的側面の機能水準に基づいて類型化することを目的とした.分析対象は65~84歳の1,231人であった.心理的側面の指標には主観的幸福感,うつ状態,社会的側面の指標にはソーシャル・サポート,老研式活動能力指標,身体的側面の指標には病気の有無,握力を用いてクラスター分析を行った結果,5群に分類できた.1つの群は,全側面の指標値が高かった.また,2つの群は,全側面の指標値が低い群と全側面の指標値の低さに加えてうつ傾向が顕著な群であった.この3群では,指標値の高低に整合性があったと考えられる.一方,残りの2群は,身体的側面の指標値は低いが心理的・社会的側面の指標値が高い群と,身体的側面の指標値は高いが心理的・社会的側面の指標値が低い群であり,身体的側面と心理的側面に乖離がある群が存在していた.また,全側面の指標値が高い群だけでなく,身体的側面の指標値が低い群においても幸福感の高さが確認された.

  • 佐々木 千晶, 今井 幸充
    2008 年 30 巻 1 号 p. 15-26
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     ケア付き住宅に対する志向性評価尺度の交差妥当性を確認し,地方都市在住団塊世代の志向性を検討することを目的とした調査を行った.地方都市在住の1947~1950年生まれの男女2,716人に郵送法で調査を行い797人から欠損値のない回答を得た.尺度作成時のデータを用いて多母集団同時分析を行った結果,測定不変モデルが採用され交差妥当性が確認された.各尺度のCronbachのαは0.603~0.818と尺度開発時とほぼ同等の値を示した.尺度得点を用いたクラスター分析の結果,「独立・快適志向タイプ」「交流優位タイプ」「控えめタイプ」「独立優位タイプ」「交流・快適志向タイプ」の5タイプが示された.属性との関連では老後の生活費が10万円未満の群で全尺度で要求水準が低くなり,全体的に社会的に優位で活動性が高いと思われる群で要求水準が高くなる傾向がみられた.

  • 金 春男, 黒田 研二
    2008 年 30 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     バイリンガルの認知症高齢者とのより有効なコミュニケーションの可能性を検討することを目的とし,異文化に配慮した母国語による個人回想法を用いた会話を実施した.会話は,在日コリアン向けの特別養護老人ホームに入居中で中等度または重度の認知症をもつバイリンガル高齢者4人(すべて女性,平均88歳)の協力の下に行った.母国語と日本語の場面において,個人回想法による会話内容や感情表出に差が生じるかという視点から両場面の比較分析を行った.その結果,重度の認知症高齢者であってもバイリンガル話者の特徴である自然なコード切り替え(Code-Switching ; CS)がみられた.すなわち,過去の学習や経験により蓄積された母国の言語形式を使う機能が残存能力として潜在していることが明らかになった.なお,ERiC感情反応評価尺度を用いて観察した結果,日本語の場面より母国語の場面において肯定的感情の豊かさが観察された.以上より,バイリンガル話者である在日コリアン認知症高齢者一世たちとの母国語を用いた回想法による会話は,バイリンガル話者の特徴を踏まえた1つの有効なアプローチになると考えられる.

  • ―― 等質性分析を用いた検討 ――
    山中 克夫, 梶原 元紀, 河野 禎之, 天野 貴史, 嶌津 豊
    2008 年 30 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,救急搬送における高齢者の転倒事例について,等質性分析を用いて包括的に特徴をとらえることを目的とした.対象は茨城県土浦市における2005年度救急搬送事例のうち転倒に関する224件であった.等質性分析により抽出された2つの次元のうち,次元1は発生場所や性別,次元2は受傷の部位,程度等の要素にそれぞれ特徴づけられるものであった.また,これら2つの次元における各構成要素の布置の状態から,「比較的活動範囲の広い前期高齢者あるいは飲酒の機会の多い男性によって,野外で歩行中に生じるタイプ」「活動範囲が狭まった後期高齢者や筋力の落ちた高齢女性に多い,住宅内において生じた中等傷に至るタイプ」「超高齢者によるトイレに行って戻る,立ち上がるといった基本動作の際に生じ,ときとして下肢を骨折し重傷に至るタイプ」「座る・横になるなどの際に生じた軽傷のタイプ」の4つの転倒タイプが存在することが示唆された.

  • 早川 三津子, 杉澤 秀博
    2008 年 30 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,要介護高齢者を対象に,判断能力が低下した場合を想定した事前計画を示すか否かに関連する要因を量的な調査に基づき解明すること,さらに質的データに基づき事前計画の表示に至るプロセスについて検討することにある.調査対象は東京都区内にある2か所の通所介護施設を利用する要介護高齢者で,量的データについては91人に対して実施した面接調査から得られた.質的データについては,事前計画に影響すると思われる家族構成に着目し,家族構成の異なる5人に対して実施した半構造化面接によって得られた.分析の結果,量的調査からは,①事前計画を示す傾向を強める要因として,独居と判断能力低下への不安があること,②事前計画と判断能力低下に備えての自己決定との関連については,判断能力低下に備えて「家族と相談して決める」という人は,「家族に任せる」人よりも「自分で決定する」人と近い関係にあり,要介護高齢者の事前計画は,本人だけで完結せず家族の意思に影響されることがうかがえた.質的調査からは,判断能力低下の可能性を見込んだ将来像を形成している人が家族との関係の確認を経て事前計画の決定・表示へとつながることが分かった.

  • 山崎 幸子, 橋本 美芽, 藺牟田 洋美, 繁田 雅弘, 芳賀 博, 安村 誠司
    2008 年 30 巻 1 号 p. 58-68
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     都市部に在住する高齢者を対象に,閉じこもりの出現率および住環境を主とした閉じこもりの関連要因を明らかにすることを目的とした.閉じこもりの定義は「外出頻度が週1回未満」とした.東京都内A区在住の65歳以上高齢者39,405人から無作為法により1万人を抽出し,郵送調査を実施した.分析対象者は要介護認定者を除く3,592人であった.分析の結果,閉じこもりの出現率は8.0%(男性9.6%,女性6.8%)であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,男女共に,生活体力指標(低い),自己効力感(低い)との関連が認められた.さらに男性では,昼間和室ですごす,寝室と玄関が同一階にない,との関連が認められた.先行研究と比して,閉じこもりの出現率は低い状況であったが,調査応答者のかたよりの影響が示唆された.和室での生活が主であるといった住環境と閉じこもりの関連が男性のみで示された.

  • 平井 寛, 近藤 克則, 埴淵 知哉
    2008 年 30 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     外出頻度の少ない「閉じこもり」に関連する地域要因の検討を行った.都市的な地域に比べ生活関連施設へのアクセスが悪い農村的地域ほど外出機会は減少するという仮説を立てた.

     分析対象はA県の10市町の79小学校区とした.目的変数を各小学校区単位での外出頻度の少ない「閉じこもり」観測割合とし,説明変数は当該小学校区の人口密度を都市的な集積を表す指標として用いて分析を行った.

     その結果以下の知見が得られた.①小学校区単位で集計した「閉じこもり」観測割合は小学校区の人口密度と関連していた(spearmanの相関係数-0.60).②小学校区の年齢構成,調査対象高齢者の所得・教育年数の構成を考慮しても「閉じこもり」観測割合と人口密度は関連していた.

実践・事例報告
  • トンプソン 雅子, 中村 好男
    2008 年 30 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     ケアハウス内で,身体活動増進を目的とした体操教室が開かれているが,参加する居住者は限られている.本研究は,体操プログラムの開発と参加人数の推移および参加者と非参加者の事例を通して,居住者の参加の動機と促進要因を検討し,体操教室参加者の増加を目的に改善を試みた事例を報告する.対象者はCケアハウス居住者80人であった.そのうち体操の参加者は45人,非参加者は33人だった.

     体操プログラムの参加者数は有意に増加の傾向を示した.その理由として本プログラムの特徴は,集団で行う教室型プログラムであり,虚弱高齢者も可能な立位と座位で行う内容であったため,虚弱高齢者の多い当該施設で居住者が参加しやすいためであったと思われる.参加への動機は,指導方法やプログラムの特徴に動機づけられる傾向が示された.また,虚弱高齢者の場合,運動実践が“楽であること”を示すプログラム内容のほうが,参加しやすい傾向が示された.

資料論文
  • 佐藤 浩司, 佐藤 秀寿, 鈴木 仁, 安村 誠司
    2008 年 30 巻 1 号 p. 90-97
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     本調査は,高齢者における生活機能評価の現状を知り,今後の特定高齢者施策に資する基礎資料の作成を目的とした.福島県内で,2006年4~10月までに,基本健康診査を集団方式(要介護認定者も含む)で受診し,生活機能評価を受けた72,512人を対象とした.評価は平成18年6月9日付厚生労働省老健局長通知「特定高齢者の決定方法」に準拠した.結果,要医療者率は,前期高齢者48.3%,後期高齢者56.1%,生活機能の著しい低下者率で,前期高齢者1.6%,後期高齢者4.4%と,いずれも後期高齢者で有意に高値を示した.特定高齢者に相当する高齢者は,医療を必要とする高齢者を含めても生活機能評価受診者の2.66%であり,集団方式の受診者は活動度が比較的高い,元気高齢者にかたよると考えられた.今後,介護予防を効果的に取り組むためには,後期高齢者で,基本健康診査を受診しない,できない者への生活機能の把握が重要であると思われた.

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