内容説明
均整と統一という明確な方法意識を持っていたポオ(1809‐1849)は、短篇小説に絶妙な手腕を発揮した“スタイリスト”であった。胸躍る痛快な暗号解読の物語『黄金虫』、夢幻的雰囲気と緊迫感にひたされた『アッシャー家の崩壊』―。『ボン=ボン』『息の紛失』等、ノンセンス物も収録した、ヴァラエティゆたかなアンソロジー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
79
ポオ短編集。良かったのは「アッシャー家の崩壊」:少年時代の親友のアッシャー家へ滞在して・・・。終始陰気で憂鬱なムードが全編を支配しているが、人間以外の超自然なものを感じさせるあたりさすがです。2013/05/23
燃えつきた棒
38
今回再読したのは、「赤死病の仮面」が読みたかったから。 それに、笠井潔の『群衆の悪魔』が、ポーに対するオマージュだったので、短編「群衆の人」も読んでみたかった。 笠井潔やポーをフランス語に翻訳して紹介したボードレールと違って、僕にはピンと来なかった。 それどころか、以前ポーに抱いていた探偵小説の創始者としての好印象が、「売文家」という印象に置き換わってしまった。/2021/10/22
藤月はな(灯れ松明の火)
28
放蕩息子と黙示録の馬のような馬の不気味な最期を描く「メッツェンガーシュタイン」、哲学者へ知恵の恩恵を与えたと自慢し、最後は良人的に去ってしまう悪魔を描いた「ボン=ボン」、首を喪った女性のシュールなおしゃべりの「ブラックウッド誌流の作品の書き方」など豊富な作品ばかり。やっぱり、子供のころから親しんだ「アッシャー家の崩壊」や「赤死病の仮面」、「アモンティラードの酒樽」も好きだが特に「陥穽と振り子」はずっと読みたかったので読むと面白くて大当たりでした。クラークやルドンなどの画も収録されているのが小気味がいいです2012/04/07
有理数
19
ポオ短篇集。「黄金虫」のみ既読。とても面白い。ポオはシンメトリーの作家で、例えば冒頭に登場させたものを結末に登場させたりと物語とテクストの体裁を整えることに凝っていたようだ。一見すればそういった丁寧さは怪奇趣味やら幻想性と相剋するように思えるけれども、意外にもそんな理論が突き抜けた幻想怪奇を生み出している。別にふわふわしているわけではなくて本当に展開で魅せてきてくれるし、濃密な描写が不安やスリルを煽って、なんというか凄いとしか言いようがない。「リジーア」「アッシャー家の崩壊」「赤死病の仮面」などがベスト。2015/05/17
壱萬弐仟縁
19
「人生というものは、いつだって波乱に満ちているものだが、その珍事中の珍事の詳細な記述を結ぶにあたって、見ることも、触れることも、またはっきり理解することさえならぬ『矢』に対する確実にして有効な『盾』ともいうべき無手勝流哲学の真価に、ふたたび読者の注意を喚起せずにはいられない」(84頁)。ここは、なんだか引っかかる。精神に関する学問で、長いあいだ忘れていたことを思い出そうとするとき、 いまにも思い出せそう(傍点)でいて、結局は思い出せずにおわることがよくある(138頁)。中年になってあの顔誰だ? みたいな。2014/02/03