出版社内容情報
ジッド[シツト]
著・文・その他
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
157
本作は有名すぎて知らない人のほうが少なかろう。知らなければ幸せだったはずの事柄。無知であれば幸せでいられたのに。真実を理解できたがための悲劇。短編は、むしろ長編より濃いときがある。そう感じさせられた一冊。
新地学@児童書病発動中
121
盲目の少女を引き取って、世話をしようとした牧師一家の悲劇を描く中編。清澄さを湛えた美しい文章が素晴らしく、それを味わうだけでもこの物語を読む価値はある。訳者の神西清氏は本当に名手だ。ロシア語翻訳だけはなく、フランス語の翻訳でもこのように原著の香気を損なわない訳文を作れるのだから。物語自体も素晴らしい。真の愛とは何か?家族とは?宗教とは?いろいろな問いを投げかける。それらの簡単に答えを出すことはできない。薄幸の少女ジェルトリュードの生き様は、読み手の脳裏から消えることはないだろう。2016/10/20
aika
60
あまりにもやるせない、物語でした。身寄りを失った貧しい盲目の少女の養育という人道的・宗教的な使命感に駆られた牧師と、家族を省みずに少女に全てを注ぐ夫が許せない妻。まるでその狭間に本当に立たされて、顔色をうかがうような心もとない気持ちで読みました。視覚で捉えられない世界を、みるみるうちに魅力的な表現で語る少女へ向けられた牧師の慈善の志が、次第に歪んだ愛情へと変化していくさまにはおぞましい醜さと単純さがありました。彼女がその瞬間に悟ってしまったすべてが物語る虚しさに、物語を読み終えたあとも愕然としています。2019/12/08
催涙雨
56
生まれつき盲人のジェルトリュードに牧師が苦心しながら説明しようとした色彩は音になぞらえたものだった。「ホルンやトロンボーンに似た赤と橙色、バイオリンやセロやバスに似た黄色と緑」しかし白や黒を説明する段になって彼はまごつき、最後には「目の世界と耳の世界とがどんなに違ったものであるか、人が一によって他を説明しようとする場合に使う比較がどれほど不完全なものであるかを、彼女を通じてしみじみと経験した」と認める。自分の感覚を誰かに伝えることはそもそもとても難しいことなのだ。物事をなにかに例えて説明するたびに生じる齟2020/08/30
關 貞浩
49
聾唖の叔母に育てられた盲目の少女ジェルトリュード。牧師であるわたしが自宅に引き取り愛情を注ぎながらこの世界について教えるにつれ、目覚ましい勢いで知性が発達してゆく。妻の不満な様子、息子との軋轢。これらがリアリティを支え、第1部で膨らんだ希望が、見る間に崩壊してゆく現実の残酷さを余すところなく描いている。何も見えていなかったのは自分自身だったと気づいたときの彼の絶望は計り知れない。無知の上に築かれた幸福よりも知ることを、宗教よりも贖罪を選んだジェルトリュード。彼女の眼には世界はどのように映っていたのだろう。2017/04/05