出版社内容情報
『暗夜行路』ほど評価の分れる作品も珍しい。測る規準をどこに置くかで価値が全く変わってしまう。日本,アメリカ,カナダの研究者が,近代小説という狭い枠にとらわれず世界文学の視点から大胆に読み直すことで,全く新しい読みの次元を導入する。
執筆者:コーディ・ポールトン、小谷野敦、鶴田欣也、スーザン・ネイピア、ジャネット・ウオーカー、萩原孝雄、清水孝純、大嶋仁、松居竜五、松井貴子、西原大輔、平川祐弘、斉藤恵子、萩原孝雄(執筆順)
ここではっきりと知らされるのは、志賀文学は測る基準をどこに置くかで、その価値がまったく変わってしまうというこだ。これはどんな作家でも作品にでもある程度言えることだが、志賀の場合その差が特に大きい。そしてそのひとつの理由は、短編作家で広い意味で抒情性(魔法的な瞬間)に特徴づけられた志賀が諸般の事情から長編「小説」(ノヴェルではなく)を書いてしまったことだ。長編小説はノヴェルのようにある一定の時間と付き合わなければならないので、必然的にミメシス文学の期待を担わされる。ところが、『暗夜行路』には、ミメシス的なものはよく見ればないことはないがそれほど顕著ではない。そこで、スパゲッティを注文したのに、西洋皿にそばが乗って出てきたような気持ちになるのだろう。『暗夜行路』の問題はこれだけではもちろんないが、測る尺度とノヴェルという形態にともなう期待が価値決定に強く響いていることは間違いない。(「序」より)
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【関連書籍】
『 投機としての文学 』 紅野謙介著 (定価3990円 2003)
『 文学理論のプラクティス 』 土田知則ほか著 (定価2520円 2001)
『 現代文学理論 』 土田知則ほか著 (定価2520円 1996)
内容説明
『暗夜行路』ほど評価の分れる作品もめずらしい。測る基準をどこに置くかで価値が全く変わってしまう。東西の研究者が近代小説という狭い基準にとらわれず、世界文学の視点から大胆に読み直すことで、全く新しい読みの次元を導入する。
目次
この人を見よ―志賀直哉の『暗夜行路』における自己崇拝
志賀直哉におけるファミリー・ロマンス
もうひとつの成熟
『暗夜行路』における女性と自己
『暗夜行路』「第一」の基調―性的自我の自然主義的探究
『暗夜行路』における子宮の(脱)形而上学
反覆の詩学としての『暗夜行路』―ドストエフスキーを視座として
世界文学の傑作は近親相姦を扱う―『暗夜行路』の場合
実験工房としての『暗夜行路』
志賀直哉の「母親たち」
志賀文学と植民地―辺境へ行く水商売の女たち
大山を描いた二人の作家―ハーンと志賀直哉との関係
『暗夜行路』はどのように読まれてきたか
北米で『暗夜行路』はどのように読まれてきたか