内容説明
古くからの宗教的救済と現代文明への渇望と混沌が渦巻くチベット社会―そのチベット民族の歴史文化、民族の運命をまるごと掴むべく、循環あるいはねじれた小説時間の手法を駆使して描く新しいチベット文学の全貌を伝える待望の短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
19
日本とチベットの仏教のありかたは天と地ほどにもちがうけれど、こうした特異な因果律をなす物語を意外にもすんなりと受け入れられるのは、私たちにそもそも仏教的な素地が備わっているからなのかもしれず、そのように考えてみると、南米産のマジックリアリズムがアジア発祥であったとしても別におかしくない、というよりこれまでにアジアでこういう小説が生まれ出てこなかったことのほうがおかしいような気がしてくる。ボルヘスやコルタサルらの小説にかぎりなく近接していながらも、独自の文化背景と方法論に根ざした稀有な作品群であるといえる。2012/06/26
刳森伸一
3
チベットの小説家ザシダワと色波の短篇小説を集めた短篇集。帯にはボルヘスの名前が挙がっているが、個人的にはコルタサルを強く連想した。特にザシダワの作品が素晴らしく、チベット文学の奥深さにもっと触れたいと思った。2018/09/10
gu
1
全体的な印象はルルフォが近いか。『幻鳴』は『ペドロ・パラモ』を下敷きにしたらしいし。『古い館』に出てくる、同じ痣を持った二百三十七人の私生児なんてのはマルケスを彷彿とさせる。このように影響関係は強く感じられるものの、ラテンアメリカ文学の模倣というよりは、「ブーム」の頃に起きた事をチベット文学という土壌から発生させようとする試みに見える。2013/06/08
ハミーネス
0
冒頭の短編が好き。昔訪れたモンゴルの丘陵と石積みの山とを思い出す。どうしようもなく寂寥として救いようがなく、そういう風景がたまらなくよい。2015/12/31
S
0
取りあえず読み切ったけど、引き込まれるような話は少なく、読み終わるまでに時間がかかった。「チベット、皮紐の結び目につながれた魂」 が一番面白かったです。2012/02/12