出版社内容情報
〈小説の魔術師〉久生十蘭(1902-57)が彫琢につぐ彫琢により磨きぬいた長めの短篇、中篇を精選。(解説=川崎賢子)
内容説明
現世では死者となって社会から身を隠し純愛を貫く物語「墓地展望亭」「湖畔」、人間心理の深奥に迫る名作「ハムレット」、巧みな語りにサスペンスが湛えられた掌篇「骨仏」など、“小説の魔術師”久生十蘭(1902‐57)の、彫琢につぐ彫琢によって磨きぬかれた掌篇、短篇あるいは中篇を精選。「生霊」「雲の小径」「虹の橋」「妖婦アリス芸談」を併収。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
61
どの作品も細部まで鏤刻された文章にひたすら酔う。冒頭の「骨仏」等は何度もの既読にも関わらず、その文章の力によって引き込まれるように読まされてしまう。何となく読みながら、作品が秘めている人間心理の不可解みたいなものに思いを馳せる。それは傑作中の傑作「湖畔」や「ハムレット」のみならず、幽明境を超えた交流の「生霊」や「雲の小径」、題材が共通する奇譚「虹の橋」「妖婦アリス藝談」まで共通した主題のような。収録されている作品が兎に角名品揃いなので、既読も多かったものの最後まで頁から目を離す事ができないほどであった。2016/03/08
壱萬弐仟縁
34
東京を出たのは5月だったが、木曾福島で長逗留をし、秋風の声におどろいて、ようやく木曾川を西へ渡った(10頁)。自殺することは、いまの自分の生活にとっては、いわば真善美の要求で、虚偽だらけの自分の半生の最後に、ただ一度だけ真実な行動をして死にたいと思ったためである(92頁)。自殺するはずの、じぶんが、それを実行しなかったのは、思いがけない急転換のせいである(122頁)。人生、ドラマが必要である。顳顬(こめかみ)という漢字は初めて知った(180頁)。2016/07/17
かわうそ
32
既読が多かったものの代表作ばかりということでどれも甲乙つけ難く楽しんで読めた。さまざまなジャンルにわたる先の読めない展開が魅力的で、中でも信頼できない語り手の手法で真相を深読みさせられる「湖畔」がベストか。2016/02/20
有理数
25
素晴らしい短篇集。全てが美しく精緻で、全てが面白い。生と死の境界、自分と他人の境界、夢と現実の境界。そんな何かと何かの境界を絶妙な感覚で掴み取り物語として収束させている。圧巻。人間がいかにして自分の存在を証明するか、逆に証明しないことでどのように生き抜くか。オカルティックなサスペンス、心霊譚、欧州のめくるめく冒険活劇、探偵小説と、豊かな物語運びで、まさに小説の魔術師。舞台上演中の事故以降、平常時もハムレットとして生きる男の数奇な運命を語る「ハムレット」が素晴らしい。「墓地展望亭」「雲の小径」もお気に入り。2016/06/03
歩月るな
21
魔術師って言うか、操る言葉が既に呪術的ではあるので魅せられる。今回の作品集は見事なスペクタクル。幽的の類があるものとして語られる作品は久しぶりに読んだので妙な感動が迫ってくる。とは言えその辺りは語りの技巧とも言え、あるものと思わせてくるのやら、そのあたりは開かれたテクストの可能性もあるとかないとか。それだけに表題二作は、この分量でこの内容を語りつくす見事さは、ちょっと長編ではお目にかかりたくない筆力を感じて、尻込みとも言う。表紙の解説文のネタバレも甚だしいが、冒頭読んだら解る事でそこが眼目ではないのかも。2020/07/20