出版社内容情報
三島由紀夫は,全身で受け止めた華麗にして繊細なる文体による多くの紀行文を残した.『アポロの杯(さかずき)』は,20代の三島の初めての世界旅行の記録.それ以後の海外紀行文,国内の紀行文の3部にまとめた.
内容説明
三島由紀夫(1925‐70)は、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国を、晩年まで旅行している。『アポロの杯』は、20代の三島の初めての世界旅行の記録。鋭利繊細な感受性を存分に濫費して、旅先の体験を明晰・清新な言葉に刻んでいる。作家の転換点ともなった重要作である。『アポロの杯』の他、海外・国内の24篇の紀行文を精選する。
目次
1(アポロの杯)
2(髭とロタサン;旧教安楽―サン・パウロにて;マドリッドの大晦日;ニューヨーク ほか)
3(渋谷―東京の顔;高原ホテル;祇園祭を見て;「潮騒」ロケ随行記 ほか)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
60
純粋な好悪で言ってしまうが、三島の随筆は技巧的に過ぎる。自然な感情の発露までもそれで覆われてしまう。だから好きではない。2019/12/18
パトラッシュ
24
いくら好きな作家でも全集を隅々まで読めないので、こうしたテーマ別編集の作品集はありがたい。特に紀行文は目立たないジャンルなので、読んだはずなのに忘れてしまっていた『アポロの杯』と再会したり存在も知らなかった文章を読めるのが嬉しかった。パリやローマ、インドなど自分も行った土地についての三島の文章を読むと、その都市の風景や空気までもが甦ってくる。特に数十年前、初の海外旅行先だった香港で見た、もう写真もなくしてしまった奇怪でグロテスクなタイガーバームガーデンの在りし日が鮮烈に思い出された。これが作家の力なのか。2020/02/01
Kepeta
18
旅行記であり、旅先で見聞きした事にも触れているにも関わらず、「自分はそれをどう見たか」ではなく「自分という存在は見たものによってどう影響を受けたか」という内面の思考に焦点があたっているのが実に三島らしい。意外にも文化的な「欧米圏」への思い入れが乏しく、一方でブラジル・ギリシャの太陽と肉体性に接した際のハイテンションぶりが面白い。超文系人間なのに...三島由紀夫がいかに「自分でない何か」になりたかったかが切実に伝わってくる。「感受性をすりへらしたい」って感覚、私もわかります。2022/07/25
ちゃっぴー
16
三島由紀夫の感性を感じる紀行文集。「ギリシャは眷恋の地である。」といってるくらいなのでギリシャ紀行文ではかなりの思い入れを感じる。サンフランシスコでの講演では冗談を言って笑ってもらえ有り難く思い、一方関西方面の婦人の会合ではいくら冗談を言ってもニコリともされず冷や汗をかいたという三島由紀夫がカワユイ。2019/05/18
ドウ
12
三島の紀行文を『アポロの杯』、海外編、国内編の3部に編纂した本。三島ほどの確固たる世界観を持った言語の使い手からすれば、世界はみるみるうちに三島色に染められ、彼の思い通りに切り取られていく。紀行文としては事物に対する感動があまり伝わってこず(あるいは共感しづらく)物足りないが、三島の技巧的な文体と晦渋な語彙を堪能できる。2019/12/28